マンション銀座歩行者天国

4.床屋さんのジャズ

腕のよい床屋さん♪

 筆者の通っている床屋さんのご主人はヨーロッパで開催される床屋さんの世界大会に出場したことのある腕利きですが、あがり症が災いして優勝などを手にはしていません。しかしそのセンスと技術は抜群で、彼にお任せするのが楽しみとなっています。
 その店のBGMは、ずっとJ−POPを流していましたが、客層は高校生くらいから70歳超と幅広いのです。筆者はあまり好まないその音楽も、散髪をしながら世間話をしていると、いつしか聞こえなくなるもので、気にならないのですが、その床屋さんの唯一の難点だったのです。もちろん、音楽を含めたご主人やスタッフの技術やセンス全体が気に入って通っている客が大勢いるわけです。


ジャズが聞こえてきた♪

 今年になって初めての散髪の日、店に入ったとたん何かが違う。そう、BGMの音楽が、今までとまるで違うのです。ジャズだったのです。しかもその系統のジャズはとくに好きです。うるさくなく、息吹を伝えるようなピアノ、サクソフォーンとベース。変拍子を所々に置きながら、楽器同士が歌いあって、心に響きます。
 「音楽、替えたんですね。どうしたんですか?」と筆者。「いやー、ずっと同じじゃ、進歩がないじゃないですか」とご主人。「どういうジャズが好きなんですか?」「勉強中です」と、正直で素直。ジャズのリズムとハサミのリズムはまったく異なり、不思議な空間です。床屋さん通いの楽しみが増えたなと、ひそかに幸福感を持ったのです。
(服部 伸一 エッセイスト・写真家)


集合住宅管理新聞アメニティ332号 (2010年5月号掲載)