マンション銀座歩行者天国

49.ウィーン留学

 長く付き合っている友人の話。ほぼ30年前のことです。ウィーンの、ある少年合唱団の日本公演の企画・構成を彼は任されました。首都圏で演奏会を何回か開催し、どの会場でも拍手が鳴り止まない状態だったそうです。時にホテルを共にし、彼らの要望などを聞いたり、ウィーンや日本の音楽の現状や文化について、合唱団を率いる団長たちと語り合いました。そんな話の中、彼の長男が9歳で歌も好きだというような、親ばかぶりを披瀝するうちに、「ウィーンに来て合唱団に入団し、音楽全般を学ばせるとよいのでは」と団長が言い出したのです。彼の長男が小学3年生の頃でした。ウィーンでは団長の家に住まわせることや学校などについての話で盛り上がりました。



夢は儚く消え去る♪

 数日後、長男に少年合唱団のすごさや楽しさをとうとうと語り、そこに「入団できるチャンス」であることを話し、「ウィーンに行くよね」と促したところ、「行かない」とつれない返事。友人は、自分自身の夢を子どもに託し過ぎたのかと反省しきり。長男のウィーン留学は、親の一方的な夢と思いがあっという間に消え去りました。
 彼は、それ以来ウイーンを憧れるようになり、ウィンナワルツが大好き。毎年1月1日のウィーン・フィルハーモニーのニューイヤーコンサートも毎年欠かさずテレビの前で聴いているとか。その時は、長男も一緒だそうです。そして「ウィーンに留学していたら音楽家になっていたのに・・・」と呟いているそうです。
(服部 伸一 エッセイスト・写真家)


集合住宅管理新聞アメニティ380号 (2014年5月号掲載)