マンション銀座歩行者天国

88.音楽のチカラ

痛勤電車と言われた頃

 30年ほど前、朝の通勤電車内でのことでした。もっとも混む時には京浜東北線や山手線、さらに埼京線では、300%を超える乗車率になり、車内にエアコンが普及していなかったその頃は窓を開けて車内の空気を入れ替えていました。それでも夏は暑く、冬も着膨れの人たちの押し合いへし合いで暑く、乗っているだけで疲れました。
 座席に座ろうと我れ先に飛び込むように乗り込むなど、殺気立ち、乗っても我がスペースをいかに確保するか、体の向き、足の位置、腕で前の人をけん制するといった格闘技のような争いが行われていました。


幸せなら手をたたこうが

 そういった中で、スペース確保を目指した人同士がケンカを始めました。足を踏んだなどと大声を出してします。満員の車内はみんなが我慢を強いられているわけで、そこにうるさいケンカ。車内の人は迷惑至極です。ケンカが随分ひどくなった時でした。
 そこに、少し離れたところから「〽しあわせなら手をた?たこぅ」と女性が歌い出したのです。ほんの少しの間が空いて、あちこちから歌声が広がり、手を叩き、「しあわせなら、肩た?たこ」というときは、隣のまったく知らない人の肩をたたき、歌が終わると、車内がかの女性とお互いを讃える拍手が起きました。もちろん、大声諸氏もおそらく反省をし、拍手の仲間入りをしたのではないかと思います。
 音楽のチカラってあるんです。女性リーダーの存在を、今も思い出します。


(服部 伸一 エッセイスト・写真家)


集合住宅管理新聞アメニティ422号 (2017年11月号掲載)