マンション銀座歩行者天国

99.音楽は実力がすべて

市民オーケストラ♪

 50年も昔の話です。親友のK君は大学でクラリネットを専攻していました。高校時代の音楽関係の部活動の顧問のZ先生はある高校の校長になり、その地域の有志でつくったオーケストラの世話役を務めています。「オーケストラ、バラバラなんだよ。うまい奴もいるけれど自分勝手に演奏しているので、まとまらない。なんとかしてくれよ」という依頼。K君は高校の時から合唱団、吹奏楽団、オーケストラなどを指導しており、Z先生からの信頼が厚かったのです。


エグモンド序曲♪

 K君はオーケストラの練習に参加。最初の曲はベートーベンのエグモント序曲。この曲は、圧政に反旗を掲げ、死刑に処せられた男の自己犠牲と、その英雄的行為をベートーヴェン自身の政治的意思を現しています。初演後、高い評価を獲てゲーテもベートーヴェンは「明らかな天才」であると述べています。
エグモント序曲には途中クラリネットソロ(その楽器のみが演奏する)があり、K君はソロを吹き始めました。すると他の楽員の視線がK君に集中。良い演奏であれば、楽員もうまいと感じ興味を抱くのです。


お山の大将♪

 ところが、首席クラリネット奏者の音大生が遅刻してやってきて、音が大き過ぎるなどと注文をつけ始めたのです。他の楽員は、またはじまったかというような目つき。音大生を歓迎せざるクラリネット奏者と位置付けていることがわかりました。Z先生はそれらの相談を受けてK君に白羽の矢を立てたのです。K君は、お山の大将でありたい人を傷つけたくないと、数回参加した後、そのオーケストラを辞めました。
 音楽は実力(知識・技巧・音楽性などと多面的(人間力も!)な要素が必須)の世界ですが、音大生のようにK君の実力を掴めない人もいます。K君はその時、すでにプロのジャズバンドに呼ばれて演奏に参加し、音響機器メーカーのアドバイザーを務めるなど、知らない人はいないほどの実力者でした。
 自分が上と勝手に思うのはいいけれど、実力を客観視できる耳を持ちたいですね。


(服部 伸一 エッセイスト・写真家)


集合住宅管理新聞アメニティ433号 (2018年10月号掲載)