オリーヴオイルを旅する

51.〜われらが海・地中海のまぼろし食材〜

 抜けるような空の青、爽やかな風が水面を撫でる。波おだやかな海上では、小さな漁船が忙しなく網を手繰っている。ここはイタリアのソレント半島の付け根に位置するサレルノ湾。引き上げられた漁師の網にはキラキラと体を輝かせたカタクチイワシの群れ。今回はこのイワシが主人公。


◆古代人の知恵を引き継き次ぐ伝統の味◆

 イタリアには古代ローマ時代にルーツを持つ“ガルム”という調味料がありました。イワシやサバなど青魚を丸のまま塩漬けにして熟成させ、それを濾過して取り出した液体調味料です。これをローマ人は様々な料理に応用していたようです。そして、その流れを汲むのが冒頭でご紹介したサレルノ湾で行われているカタクチイワシの打瀬網漁です。この漁は3月から7月にかけて行われますが、水揚げされた新鮮なカタクチイワシは、その日のうちに頭や内臓が取り出され、素早くオーク材で作られた樽に塩漬けにされます。重しを乗せ熟成させること数か月、樽の底に開けられた針のような穴から滴り落ちる液体を集め、数度の濾過を繰り返すことで、不純物が取り除かれます。こうして得られた琥珀色に輝くような液体が「コラトゥーラ・ディ・アリーチ」と呼ばれるカタクチイワシの"魚醤”です。さしづめ秋田の"しょっつる"、石川の"いしる”に類する液体の調味料なのです。


◆幻の魚醤「コラトゥーラ・ディ・アリーチ◆

 この魚醤も今ではチェターラという漁村でしか作られておらず、絶滅の危機から守るべき希少な食材となっていますが、この周辺の南イタリアでは、今でもよく食べられています。
 獲れたてのカタクチイワシを、一切の化学的な処理をせず、ただただ、純粋に、そして自然に熟成することで得られる貴重なこの調味料は、同様に人の手を加えず新鮮なオリーヴの実から絞って取り出される、エキストラバージン・オリーヴオイルとの相性が抜群です。次回は、この魚醤を使った超絶品パスタをご紹介します。 <M>



(2018年7月号掲載)