1階店舗が蕎麦屋から居酒屋に変わり、深夜1時まで営業「うるさい、臭い」等居住者から苦情、どうしたらいいか? (2008年3月号掲載)

Q.

私たちのマンションの1階は最初から店舗が入っていました。最近お蕎麦屋さんから居酒屋に変わりました。厨房の換気ダクトを設置したり、冷蔵庫の室外機を設置してます。また、深夜の1時過ぎまで営業しているため、組合員から「うるさくて眠れない。臭いがひどい」等の苦情も来ています。経営者にこのことを伝えたら、「元々店舗として営業していいマンションだから文句を言われる筋合いはない」と言われました。どうしたら良いでしょうか?

A.

本問とほぼ同じようなことが問題となった裁判例(藤和シティホームズ尼崎駅前事件)があります。管理組合が換気ダクトの撤去と深夜営業の禁止等を求めたことに対して、居酒屋側は深夜営業や換気ダクトの設置によって区分所有者が迷惑を被ることがあったとしてもそれは受忍限度の範囲内であるから、共同の利益に反しないとして反論しました。

裁判所は①厨房の排気ダクトを店舗の南側に設置することは管理規約に違反しているし、そこから排出される油煙や臭気のため迷惑、不快感を与えているから、区分所有者の共同の利益に反している。②居酒屋の深夜営業は騒音等により住民の安眠を妨げ、平穏な生活を妨害するものであるから区分所有者の共同の利益に反する、として厨房排気ダクトの撤去と午後11時以降の居酒屋の営業禁止を認めました。

区分所有法6条1項は、区分所有者は建物の管理または使用に関し、区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならないと規定しており、共同の利益に反する行為を行った者については、57条でその行為の差止請求の措置を取ることがでることを規定しています。

本件でも居酒屋営業の騒音と臭気に対する差止めとして、営業時間の制限や排気ダクトや室外機の撤去、防音措置の設備を求めることが考えられます。

共同の利益に反する行為かどうかを判断するには「当該行為の必要性の程度、これによって他の区分所有者が被る不利益の態様、程度等の諸事情を比較考量して決すべきものである」とされています。

ところで、共同の利益に反するか否かが、騒音や臭気について問題となる場合に判断基準として使われるのが「受忍限度(論)」というものです。

私たちが日常生活を営む上で、一定の音の発生や臭いの発生は不可避です。例えば、洗濯機の音や料理の際の臭いについて、それが不快であるからといって損害賠償請求や差止請求が認められたら社会生活を営むことができなくなってしまいます。そこで、社会生活を営む上で、客観的に判断して受忍限度を超えた場合に初めて違法性が生じて、損害賠償請求や差止めが認められるいうのが受忍限度論という考え方です。

前記裁判例でも①多くの組合員が排気ダクトからの臭気や客が店の前で大騒ぎする等の騒音が気になり、平穏な生活が妨害されていると訴えていること、②組合員らが求めているのは夜11時以降の営業の禁止であり、11時までの営業は認められていること、③換気ダクトの設置が規約に違反していること等から組合員らが受けている損害は受忍限度を超えていると判断しています。

本件でも、同様の事情が認められれば、差止請求が認められる可能性があります。また、マンションの周辺状況がどのようなものか(もともと比較的平穏な場所にあれば、騒音について受忍限度を超える方向で考慮されることになるでしょう)等も判断要素になってきます。

回答者:法律相談会 専門相談員 弁護士・石川貴康

(2008年3月号掲載)