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「規約違反した組合員の治療院営業」の禁止(2013年2月号掲載)


 私のマンションは、住居、事務所、店舗に別れており、それぞれ他の用途に使用してはならないと管理規約に規定しています。ところが、住居部分の区分所有者Aさんは、カイロプラクティック治療院を営業。管理組合がAさんの営業を止めさせることはできますか。




 管理組合は、区分所有者の共同の利益に反する行為を止めさせることができます(区分所有法57条1項)。従って、Aさんの営業行為が共同の利益に反する行為にあたるのであれば、Aさんの営業行為を止めさせることができそうです。
 治療院としての営業は、通常、住居としての利用とはいえませんから、管理規約に違反することになります。そして、このマンションのように、住居、事務所、店舗の各部分で構成される複合マンションでは、使用態様に関する管理規約を守らなければ、居住者の良好な環境を維持することはできなくなると考えられますから、使用態様に関する管理規約に違反しているAさんの営業行為は、共同の利益に反する行為にあたるといえるでしょう。
 しかし、類似の事例で、共同の利益に反する行為にあたると認定しながら、管理組合からの営業禁止の請求が「権利の濫用」にあたるとして、これを認めなかった判例があります(東京地裁平成17年6月23日判決)。
 「権利の濫用」とは、権利をみだりに行使することをいい、権利があるからといって、これをみだりに使うことは許されないとされています(民法1条3項)。権利の濫用にあたるかどうかは、事案ごとの判断になりますが、この判決は、不当な行為によって取得した権利を行使することは許されないとする「クリーンハンズの原則」を理由としました。
 判例の事案では、住居部分の大多数が事務所として使用されている状況下、管理組合は、これら事務所に対し、改善の注意や警告を発せず、3件の治療院に対してのみ使用の禁止を求めており、また、治療院としての使用差止めを求めて訴訟を提起する旨の臨時総会決議では、反対票を投じたのは治療院のみで、用法違反により事務所利用している組合員は棄権を除いて全員が賛成票を投じた結果可決されていました。これらの事情を踏まえて判例は、「(管理組合が、)住戸部分を事務所として使用している大多数の用途違反を長期間放置し、かつ、現在に至るも何らの警告も発しないでおきながら、他方で、事務所と治療院とは使用態様が多少異なるとはいえ、特に合理的な理由もなく、しかも、多数の用途違反を行っている区分所有者である組合員の賛成により、…治療院としての使用の禁止を求める原告の行為は、クリーン・ハンズの原則に反し、権利の濫用といわざるを得ない」として、管理組合の請求を認めませんでした。
 この判例の結論には、賛否両論あります。この判例は、一方で、治療院は事務所としての使用態様よりも居住者の生活の平穏を損なうおそれが高いと認定しながら、他方では、「事務所と治療院とは使用態様が多少異なる」程度にしか考慮しておらず、その立論に問題があるように思います。
 いずれにせよ、共同の利益に反する行為に対しては、差止め請求が可能であるのが大原則であり、それが制限されるのは極めて例外的な場合に限られると理解して頂ければと思います。



回答者:法律相談会 専門相談員 弁護士・内藤 太郎
(2013年3月号掲載)