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廊下の手すりの不具合の程度/管理組合は手すりの汚れで交換義務はあるのか(2017年5月号掲載)


 私達のマンションの組合員のAさんから自分の居室の前の廊下の手すりが汚れている。廊下の手すりは共用部分だから、管理組合の方で綺麗にして欲しいと言われました。確かに汚れているので、業者さんに見積を依頼したところ汚れを綺麗に落とすことは難しく、元のように綺麗にするには全体を交換するしかないと言われました。全体の交換には相当程度の費用がかかるので、可能な範囲で汚れを落とすことで了解して欲しいと言ったところ、Aさんは納得せずに、交換しなければ管理組合を訴えると言っています。管理組合には交換する義務があるのでしょうか。




 標準管理規約を含めて、多くのマンションの規約では「敷地及び共用部分等の管理は、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする」という規定があると思います。そうすると、本件では管理組合が綺麗にする義務がある事になりそうです。
 他方で、本件では汚れを落とす事ができず、綺麗にする為に手すり全体を交換するしかなく、それには相当程度の費用がかかる事になりますが、共用部分に汚れがあるだけで相当な費用をかけて交換しなければならない義務が常にあるという結論には疑問もあります。
 この点に関して、区分所有者が専用使用権を有する(共用部分である)バルコニーに設置された手すり壁のガラスの汚れについて管理組合が修理する義務があるのかが問題となった事件で、東京地方裁判所平成27年7月17日の判決は「被告(管理組合)が、その構成員である本件マンションの各区分所有者に対し、本件マンションの管理組合として共用部分を適正に管理する義務を負っているものと解されるとしても、共用部分に存在する不具合の全てについて、その程度等にかかわらず、修補する義務があるということはできず、不具合の程度や修補のために生ずる被告の費用負担の程度等に照らし、合理的と認められる範囲で補修等の対応をする義務があるものというのが相当である。本件不具合は、それによって本件居室からの眺望に若干の影響が生じる事は否定できないものの、その程度は限定的なものと認められ、その他本件居室及び本件バルコニーの通常の使用に支障を生じさせる性質のものとは認められない。他方で、本件不具合を修補するには、バルコニーの交換を要し、少なくとも85万円の費用を要する事が認められる。そうすると、被告に自己の費用負担において本件不具合の修補をする義務を負わせる事は、本件不具合によって受ける原告の不利益の程度に比して被告(その構成員である本件マンションの各区分所有者)に過分な経済的負担を強いることになるものと言わざる得ない」として、管理組合の修補義務を否定しました。
 この判決は不具合の程度と費用負担を考慮して義務を否定しています。即ち、不具合の程度が低く、費用負担が高いことは義務を否定する方向に作用します。逆に不具合の程度が高く、費用がそれほどかからない場合は義務を肯定する方向に作用することになるでしょう。本件でも、手すりの汚れは不具合の程度としては低いと考えられ、交換費用が相当程度かかることからすれば管理組合の交換義務は否定されることになるでしょう。他方で、仮に、不具合が汚れにとどまらず腐食などにより、危険性が生じていれば補修義務が認められる事になると思われます。



回答者:法律相談会 専門相談員 弁護士・石川 貴康
(2017年5月号掲載)