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理事長が集会の決議を得ないで「耐震診断」の契約を締結することはできるか?(2018年9月掲載)


 私が理事長をしているマンションでは、先日起きた大きな地震で建物にひびが入りました。耐震診断をしてもらおうと業者に連絡をしたところ、依頼が沢山来ているので直ぐに契約してもらわないと、診断できるのはかなり先になってしまうと言われましたので、理事長の権限で契約を締結しようと思いますが、何か問題はありますか。




 区分所有法の18条1項では「共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は各共有者がすることができる」と定められています。そこで、耐震診断が「保存行為」に該当すれば、理事長が単独で契約を締結することは可能となります。
 ここで、保存行為とは、共用部分の滅失・毀損を防止して現状の維持を図る行為とされていますが、保存行為が集会の決議を要せずに単独でなしうる行為であることから、緊急性を要するか、比較的軽微な維持行為である必要があるとされています。
 そうすると耐震診断自体は、建物の現状を把握した上で、これからどのような対策が必要か否かを決めるためのものであり、一般的には建物に少しひびが入った程度では保存行為に該当するとは言えないと思われます。
 そうすると、本件では原則に従って「管理行為」として、集会の決議(普通決議)が必要になります。
 なお、理事長が集会の決議を得ないで締結した建物診断とその報告書作成の業務委託契約について、管理組合が支払いを拒否したところ、業者が契約に基づく報酬の支払いを求めた事案で、東京地方裁判所平成27年7月8日判決は「本件契約は、マンションの現状を調査して報告書にまとめ、それをもとに改修工事の設計を行い、施工会社の選定を行い設計監理を行うとの内容であるから、同契約の締結は、共用部分の管理に係る事項に該当すると認められ、区分所有法18条1項により、集会の決議が必要である。」として、業者の管理組合に対する報酬の請求を否定しています。
 必要な決議をしないで契約を締結すれば、業者に対しても迷惑をかけることになるので注意が必要です。もっとも、管理行為に該当する契約を締結する場合は常に、集会の決議が必要だとすれば、定期総会で承認を得られていない契約については、次の定期総会まで待つか、あるいは臨時総会を開催する必要があることになり、機動的な管理行為ができないことになり、不都合ではないかという疑問も生じます。
 他方で、集会での議決権行使は組合員にとって重要な権利であることから安易に制限されることは好ましくありません。
そこで、管理行為として集会の決議が必要となる契約締結行為のうち金額が一定の金額以下のもの「理事会の決議」で締結できるとする内容の規約を定めておくことが考えられます。



回答者:NPO日住協・法律相談会 専門相談員 弁護士・石川 貴康
(2018年9月号掲載)