過去事例(排水管)

戸別のリフォーム状況に応じたきめ細かな戸別対応

[建物概要]東京都江戸川区、14階建て、全7棟、1324戸、S52〜55年に3期に渡り分譲された大型団地。自主管理でありながら、積極的な団地管理により、国交省などから数多くの表彰を受けるなど、先駆的なモデル団地として定評がある。



     

◆末永く安心できる住まいにするための専有部分一体改修

 築30年も過ぎれば当然に室内は様々なリフォームが既に行われている。不動産価値として人気のある団地であればなおさらのこと、所有者が代わるタイミングで魅力のある大がかりなリフォーム投資が行われる。それを購入した若い世代は、当然にその団地の歴史を知る余地もなく、スケルトンリフォームにより一見快適な住まいを手に入れ人生を歩んでゆく。
 しかし、いくらスケルトンリフォームといっても見えない給排水管までを完璧に更新しきるリフォームは残念ながらまだまだ少ない。管理組合へ専有部分のリフォーム申請があった時に指導したとしても、最後の最後は所有権を持つものに委ねられる。
 専有部分の設備配管の管理には限界がある。この団地でもこれまで様々な取り組みをしてきた。専有部分の給水管・給湯管については、各戸が責任を持って更新を実施していく方針とし、ことある度に水回りのリフォーム時には設備配管も更新するよう先導してきたが、なかなか思い描くようにはならなかった。
 また、排水枝管については、共用立て管との接続方法について、配管技術的な納まりで難儀なところがあり、管理事務所が完全に指導しきることが難しく、結果として、共用部分と専有部分のハザマのグレーゾーンから漏水事故が発生してしまうことがあった。
 さらには、台所から流れてくる排水アルファ管が、ユニットバスの真下を横断してから共用立て管に繋がる配管ルートとなっており、そこの専有枝管の改修にはユニットバスの改修を道連れにしてしまうことも頭を悩める原因となっていた。このことを知らないで浴室リフォームを進めると区分所有者が損をするのだが、この団地に出入りの少ない一見さんのリフォーム業者は、なかなかこの問題に気がつけない。
 このような状況には、やはり管理組合が共用部分と一体となって専有部分の設備配管を物理的にきっちり改修していかないと安心は手に入らない。


     
腐食により穴があいていた排水アルファ管。
住戸内専有部分の横引き管の部分である

     
腐食により穴があいていた排水アルファ管。
共用立て管と専有枝館が合流する継手部分で溶接製造された部分の「割れ」である

◆これからの排水管改修手法 多様化する個別ニーズにいかに対応するか

 さて、専有配管の一体改修はいろんな団地で既に行われているので珍しくはないが、この団地のように、売りに出ればすぐ買い手が決まるようなところは、室内の状況がリフォームにより本当に様々となっているが、ここまでマンモスな団地では、なかなか戸別設計ができない。住戸タイプ別の実施設計まではできるが、さすがにこの規模での戸別リフォーム状況を踏まえたところまではなかなか難しい。実際のところ居住者も、内装は新しいが床の中に隠れている排水管をどこまで自分で替えたかなどわからないのが普通であろう。わからないのだが、水回りの設備機器や内装材が高価な拘りの一品となっている場合は「排水管工事などはやりたくない」ということになる。時が流れリフォームが進めば進ほど、管理組合が行う専有部分の一体改修が難しくなっていくのである。
 そこで、この事例では、工事に先立ち、過去10年分の膨大なリフォーム・模様替え申請書類を全てスキャニングにより電子データ化することから始め、内装リフォーム時に設備配管を更新してあるかどうかを調べることから始め、施工者による全戸訪問調査時には、その資料に基づく戸別具体な話しから始めていくことができる。
 そして、見えてきたのが「リフォームのパターン」である。リフォームの度合いにより4つのグループに分類した上で、排水管の更新状況により、更新範囲を1案・2案を提示し所有者が選べるようにしていった。勿論、腐食した問題のある排水管を残置するようなことは許されないが、自身で塩ビ管に更新してあった事実が確認できた住戸については、お気に入りのキレイな内装を剥がしたくない場合は、そこを工事しないことを選べるようにしていった。その場合には保証範囲の適用除外などいろいろな事務手続きが必要になる。
 これを住戸タイプ別に説明会を繰り返した上で、最後は戸別打ち合わせにより決定していく。作業は大変で、最初は混乱もあったが、なにせこの戸数である。人間、慣れればなんとかなる。


     
ユニットバス下の排水管は「段階的スラブ上化改修手法」を
応用した考えで、この難題を乗り切ることとした

排水アルファ管とは

 ところで、工事名称にもある排水アルファ管のことを少し紹介しておきたい。
 現在、世間で盛んに改修が行われている配管用炭素鋼鋼管(通称=白ガス管、SGP管)の次の世代の管材である。マンション建設ラッシュによる施工省力化の要請を受けて、昭和50年代に入り登場したもので「アルファコーティング鋼管」という名称の製品である。
 配管の軽量化を図るため薄肉の鋼管を採用、接合はねじ切りではなく管を差し込むだけの方法とし、工場であらかじめ必要な寸法に加工して現場に納品する「プレハブ加工工法」により現場施工の省力化を実現した。
 防錆処置として内外面ともに塩化ビニル樹脂による被覆が施されているが、密着精度があまり高くなく、使用開始後25年を過ぎる頃に膨れ始める。そのうち、被覆が膨れた部分から剥がれはじめ、鉄部があらわになり露出された鉄部がピンホール状に腐食する。
 このような過程で鉄部の浸食が始まった場合、集中的に浸食が起きることと、もともと薄肉であるということが漏水の発生を心配させる。また、差し込み接合部分の管端部分や溶接加工部分といった場所は、特に被覆が剥がれやすいので、局部的に腐食が進行する。
 平成に入ると、更に軽量な耐火二層管の普及が浸透したことと、このアルファ鋼管を唯一、製造・販売していた会社の倒産により、市場から姿を消した。数年前から、白ガス管の改修に続き、このアルファ管の更新を行う時代に突入したようだ。

ユニットバス下を横断する排水管改修手法

 図のようにユニットバスの真下に、交換しなければならない腐食したアルファ管が敷設されていた。更新するにはユニットバスをどかさなくてはならないが、30年も経過したユニットバスをいったんばらしたら、元には戻らない。すなわち、排水管の更新には、ユニットバスを新品に交換しなければならないということを意味する。そのユニットバス更新費用を修繕積立金で賄うわけにはいかない。というか、そんなゆとりのある財源は、どこの団地でもないのが普通だ。住宅金融支援機構のマンション共用部リフォームローンでも、さすがにユニットバスという個人に帰属される専有物までは融資してくれない。かといって、50万円も60万もするユニットバス代を区分所有者から臨時徴収するわけにもいかない。そこで、数年前に本紙でも紹介したことのある在来浴室の場合の排水管改修手法である「段階的スラブ上化改修手法」を応用した考え方で、この難題を突破することとした。

     
住戸内のユニットバスをどかした状態。
排水アルファ管が横たわっている

 一度に全戸のアルファ管更新を完結させるのではなく、同時オプション工事でユニットバスリフォームを行ってくれたお宅についてはアルファ管更新が完結する。
 無い袖は振れない。かといって、放置しておく訳にもいかない。ユニットバスリフォームをお願いしつつ、リフォームを見合わせる住戸には「将来排水接続口」を設けることで将来の道筋を付ける。
 工事後は、この履歴を整備し、どこの住戸にアルファ管が残っているかを明確にした。将来、所有者が代わったとしても、管理事務所にリフォーム申請が出された段階でアルファ管が残されないようチェックする体制も整っている。「工事」というハードで賄いきれない部分は、「運用」というソフトでカバーしていく方法である。
「設計・監理=有限会社マンションライフパートナーズ、施工=京浜管鉄工業株式会社」


(2015年1月号掲載)

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