昨年3月の東日本大震災から間もなく1年。その間、既存建物の耐震化が急がれるようになった。近い将来起こるとされる首都圏直下型地震や、海溝型地震に備えて、建物の耐震化がどのように進められているのか、東京都の「特定緊急輸送道路沿道建築物の耐震化」を取材した。


「緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例」とは

 東京都議会は、偶然にも昨年の3月11日「緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例」を可決した。
 条例は、震災時の避難や救急消火活動等を支える緊急輸送道路の機能を確保するため、沿道建築物が地震で倒壊して道路を塞がないよう耐震化を進め、都民の生命、身体及び財産を保護することを目的としている。
 中でも特に重要な道路を「特定緊急輸送道路」に指定し、沿道建築物の所有者や管理者には、耐震化状況の報告と診断実施を義務付けた。義務を履行しない場合、都は命令や公表を行う。
 また、耐震診断・耐震補強設計・耐震改修費用の助成を行い、マンションには耐震診断に必要な費用の全額を助成する。
 対象となる建物は、敷地が特定緊急輸送道路に接する新耐震基準(81年6月)適用以前の建物で、倒壊時に道路の半分以上を塞ぐ高さのあるもの。
 特定緊急輸送道路沿いには対象となる建物が約5000棟あると推測されており、そのうち約2割がマンション(賃貸含む)と見られている。


◎耐震診断の目安

 耐震診断には、構造耐震指標Isを用いる。Is値0・6以上の建物は、震度6強の地震でも建物が倒壊する危険性は低く、未満では大きな被害を受ける可能性が高い。
よって、旧耐震の建物は、Is値0・6未満の場合改修が必要とされる。

◎診断の進捗状況

 マンションの報告書提出や耐震診断状況は、現在も都の担当者がマンションを直接訪問し、条例の説明などを行っているが、概ね「スムーズにいっている」とのこと。
 条例制定当初、都では診断費用を全額助成する事で診断自体は問題にならないと思われたが、診断の結果「強度不足」となれば、マンション所有者には資産価値下落が懸念され、診断が進まないのではと危惧されていた。
 しかし、先の震災がマンション所有者の意識を大きく変えた。診断はもちろん、「耐震設計、改修まで考えたい」という所有者もいるそうだ。


◎設計・改修が課題に

 診断の次は耐震設計及び改修が課題となる。こちらは診断のように全額助成にならないため、所有者負担が発生する。
 都担当者によれば、「耐震設計、改修の助成は他の事業には無い規模。期限もあるため(設計は平成26年度、改修は平成27年度)、マンション所有者には是非考えて欲しい」とのこと。
 現在都では、管理組合の総会や理事会に条例の説明に出向き、戸別訪問も行っている。そこで、耐震改修に使える制度や補助金まで様々な相談に応じている。もし、耐震について「不明なことや不安があれば、相談して欲しい。都は協力を惜しまない」ということだ。
 「特定緊急輸送道路沿道建築物の耐震化」についてのお問合せは、東京都都市整備局市街地建築部建築企画課=03・5388・3362まで。
 他方、緊急輸送道路沿道以外のマンションは、正確な築年数や戸数、管理組合の活動状況などを今年度末までにデータベース化し、次年度以降、耐震化や建替え促進にいかすこととしている。


◎他県での耐震化への対応状況

 建物の耐震化は、国の耐震改修促進法により、27年度を計画の完了年度とした「耐震改修促進計画」の策定を全国の自治体に義務付けている。そのため、どの自治体も同計画を策定済みだが、今のところ独自に条例を定め、耐震診断を義務化している自治体は東京都以外に無い。
 東京都は他県と比べ、人口の密集度が著しく高く、かつ首都機能を維持するために、条例を定め緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を急いでいる。
 しかし、国の法律では建物所有者の耐震化を「努力義務」にとどめているため、違反者への強制力が弱く、実行性が担保されていないのが実情だ。また、耐震診断費用についても、国の負担割合が制限されているため、すべての自治体が全額助成までは踏み込めないようだ。
 そこで昨秋、1都9県で構成される「関東地方知事会」では、震災以降、連携して緊急輸送道路の耐震化を促進するため、建物所有者の耐震診断が義務となるよう、耐震改修促進法を改正し、条例による義務化が可能になるよう要望した。
 また耐震診断、改修費用についても国が集中的に一定額を負担し、耐震化を促進する枠組みを整備するよう要望した。
 隣接する県と道路は繋がっている。それが緊急輸送道路であれば、災害時の弾力的な活用を確保するために、なおのこと沿道建築物の耐震化は東京都同様に他県でも進める必要がある。国の柔軟な対応が望まれる。


(集合住宅管理新聞「アメニティ」2012年2月号掲載)