新マンション事情

日英の住宅政策の違い―分譲マンションの対策を考えるだけではスラム化を防止出来ない

 我が国の住宅政策は永らく経済政策としての新築重視で、街づくりとは連動せず、金融、減税で量を確保するに過ぎなかった。公団公社・公営・住宅金融公庫は戦後の日本の住宅供給を牽引する住宅政策の3本柱として長く存在したが、近年ではこれら公共住宅政策を縮小・消滅の方向に舵を取り、ますます市場重視の政策となった。もともと住宅政策の3本柱は住宅難対策が目的だからストック対策ではない。公団公社・公営は自身が供給した賃貸住宅経営の責任はあるものの、多くの私的所有の住宅ストック(民間賃貸住宅を含む)の管理は自助努力に任されていたのだから、3本柱が消えようとストック全体には大した影響はない。もちろん借家法や区分所有法、製造物責任法、マンション管理適正化法等があるがこれらは民々のルールを決めただけで、行政が直接介入するものでない。老朽化しようと空き家化しようと国・自治体は関知しない。しかし、非木造共同住宅が都市住宅の主流になった今日、国・自治体の直接介入のストック対策なしで、健全な都市を残せるか大きな疑問となる。



ところでストック対策は英国の住居法が大いに参考になる。英国の住居法は1848年に制定された「公衆衛生法」が下敷きになるが、住まいを人権・社会保障・公共財としてとらえ、国民は一定の基準以上で居住することが権利であり、義務であると定めている。この目標を具体化する手段として住宅監視制度が設置されている。監視員はエンバイラメント・ヘルス・オフィサーと言い、日本の環境衛生監視員に当たる。文字通りヘルス・オフィサーが担当する理由は健康的な住まいを確保するためだ。健康的居住基準に沿って監視し、改善、住み替え、廃止の勧告と命令をする。わが国には建築基準法はあるが建てた後の居住基準を守る住居法がない。大正末期に日本の国会で検討したことがあり、その後何回か俎上に上るが、実現に至らなかった法律だ。環境衛生監視員がチェックする項目は(1)建物の傷み・劣化、(2)堅固さ、(3)湿気、(4)水質、給水、(5)台所設備、(6)便所の数、(7)入浴設備・シャワー・洗面所・給水・給湯設備、(8)照明・暖房・換気・排水設備、これらに加えて過密居住の禁止がある。これらのチェックは英国内のあらゆる住宅に適用され、国民は監視員の立ち入りを拒否できない仕組みだ。立ち入りの切っ掛けは本人の自己申告が多いが、さらに近隣の垂れ込も有力な情報源だ。過密居住が推定される場合はゴミの量を確認し立ち入りを決定する。従って普段監視員がうろうろ歩いてパトロールしている訳ではない。勧告・命令を従い易くするには、必要に応じて経済的支援が行われる。住み替え先住宅が不足する場合は建設計画にフィードバックされる。従って勧告・命令を受けても住民の抵抗がない。表は日英の住宅政策の比較であるが、政策のバックボーンがなく場当たり的対策では効果的なマンション対策など到底不可能だ。英国の住宅政策を示すと、無い物ねだりになるが、示さなくては何が欠けているかを国民は知ることが出来ない。 (つづく)

(2010年3月号掲載)
(高崎健康福祉大学教授 松本 恭治)