新マンション事情

産業構造の変化とマンション問題

  第二次産業がマンション問題とどのようなかかわりがあるかは、多分管理組合から見ていると分からない。ところが国勢調査結果や住宅土地統計調査結果を再集計してみると大きく影響しているのがわかる。地方経済を支えていた製造業は中心商業地や住宅地から遠くはなれた市街化調整区域に工業団地を造成し誘致されてきた。その結果、自動車普及率が高まり、小規模町村でも工業誘致が可能になった。車社会が進行し、道路等のインフラが整備されれば、バス鉄道などの公共機関は衰退したから、最寄り駅と脈絡がない住宅地や大型店舗、教育機関等の郊外進出がさらに容易になった、中心部の空洞化が進む一方、広く薄く隙間だらけに拡大した郊外は極めて不安定な都市構造になった。バブル経済が頂点に達した頃には、郊外の住宅需要を当てにした新築マンションが多数供給された。ところがバブル経済崩壊後多くの企業が海外に生産拠点を移したため、人員整理や撤退の影響を被った多くのマンションや戸建団地が不良化に突き進んだのである。勿論中心市街地に立地する分譲マンションも車社会に追随できず不良化に走ったのは言うまでもない。
  東京大都市圏を見ると同じように製造業の撤退が起きている、図は東京の距離帯別第二次産業従事者の比率であるが、郊外遠隔地ほど従事者比率が高い。もともと東京の人口密集地から移転発展した工業が多いのだが、一端拡大した製造業がバブル崩壊を境目に海外移転および撤退を続けている。製造業に依存していた地域ほど地域経済への打撃は大きい。
  ただし地方都市と違って東京大都市圏の中心部は、地方から人も金も情報も集まる仕組みが出来上がっていた。大企業の本社機能は東京に集中している。東京は第二次産業の就業者を減らしてもそれを上回る第三次産業就業者を全国から集めることが可能で、勿論郊外遠隔地に居住する若者をも吸収している。東京の近距離帯は人口増加に転じたのだから、超高層マンションが乱立するのも東京の一人勝ちを象徴する。ただ蛸が足を食って成長している姿には、危うさを払拭できない。集中も拡散も何かを破壊しながら進むのが通例だ。


  ところで、地域で長く営業している宅地建物取引業者は人の流れを敏感に感じているようだ。郊外遠隔地のある業者は、「バブルの時は東京から大勢来店したが、今は殆ど来ない。元々の地元民の住宅需要が小さい上、其の一部が東京に吸収され帰って来ない。取引の量が減り、単価が下がっているから、経営は苦しい」と言う。地域の安定こそ福祉の基礎であり、優良な個人資産の形成と保護は国家の義務のはずだが、実は達成手段は何もない。公共住宅政策を放棄し、民間に丸投げの住宅供給と、容積率を定めるだけの都市計画の下で果たして地域の再生は可能だろうか。勿論、一部の基礎自治体は人口減少を不可避として将来を見据えた政策検討会議を庁内に設置したが、特効薬が見つからない。とりあえず財政再建を目標にしている、気づいただけでもすばらしい。地元の業者や住民にヒヤリングする計画があるようだが、業者や住民が主体にならなければこの難局を打開できない。(つづく)


(2010年9月号掲載)
(高崎健康福祉大学教授 松本 恭治)