新マンション事情

92.団地再生は可能か/カルテが無いのに処方箋ばかりの中で町田市は

 以前のURは賃貸住宅と分譲住宅の定期調査で住宅規模別、管理開始時期別の年齢構成、世帯構成が明らかにされていた。途中から分譲住宅の調査をしなくなり、賃貸住宅も詳細な報告をしなくなった。もとより団地再生は公営、UR、供給公社、分譲団地、戸建て団地など種類は豊富だが、コンサルタントの報告は提言ばかりである。高齢化、単身化、空き家化、老朽化を前提としての提言だが、なぜか高齢化、単身化、空き家化、老朽化等のデータがない。診断がなくて処方箋ばかりで、最後に費用をどの程度負担するかも分からない。始まったばかりだから、急ぐ必要は無いかも知れないが、居住者の実像なくしては提言が軽い。
 ところが、東京都の町田市の住宅課の取り組みだけは異色である。団地再生対象の11団地(賃貸11、分譲5)について人口・世帯像、居住年数、駐車場設置率、施設、店舗の種類と営業状況、コミュニティ活動の種類、主な住宅の間取り、主な改善目標、バスの本数等をカルテとして団地別に町田市ホームページに団地再生の基本的指針(資料編)を公表している。完全とは言えないまでも再生対象団地の住民自身が、問題がどこにあるかを考えやすい。
 団地別に公表されたデータを筆者が項目別に再集計しグラフ化した一部をここに掲載した。団地別賃貸・分譲別管理開始年別単身世帯率であるが、1992年では単身世帯率は最高でも24%しかなかったが、2012年には最高は62%に達した。凄まじい変貌ぶりである。概して賃貸の上昇は分譲より大きい。単身世帯化すれば当然コミュニティは変質する。高齢人口は急拡大し、14歳以下の人口は激減している。併存団地では賃貸から分譲への住み替えは減少する。多くの団地は世帯数を維持しつつも人口自体は急減している。この20年間で爆発的に単身化が進んだ理由を実は団地カルテだけでは分からない。
 国勢調査、住宅土地統計調査で東京市部と特別区の人口移動を分析すれば、単身化の原因分析が可能だ。バブル経済崩壊後、東京区部からの人口流出が反転し、区部に吸収される動きが強まった。高層住宅建設がこの動きを加速した。共働き世帯は最寄駅までのバス便より徒歩圏にあるマンションを選択するようになった。最近の高層マンションは気密性が高く、高密度市街地でも窓さえ開けなければ外部騒音を遮断出来る。郊外の交通不便住宅は不人気化し、一人当たり床面積の拡大、つまり単身化を可能にした。
 建て替えや2戸1工事をすれば家族世帯の割合を増すことができるが、現状ではこの成果を持続させるのは困難だ。住宅の大型化を図っても単身化を阻止できない。人口増加から減少へ転換したら、今後、郊外団地はますます衰退する。団地再生で画期的な成果を期待したいところだが、社会状況を鑑みると今以上に問題を悪化させないだけでも凄いことのようだ。
 なお、英国の政策は世帯人数と住宅規模が適合することを基本としている。過密居住は禁止だ。日本にはこのような法律も政策もない。そんな状況で再生を図っても上辺だけの取り組みになりかねない。地味でも良い。一時の成果でなく持続的普遍的仕組みが欲しい。(つづく)



(2015年10月号掲載)
(松本 恭治)