建て替え

建替え座談会

 マンションを巡る制度的な動きが加速度を増して変化しようとしている。昨年末までに公布或いは公表された、「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」(長期優良住宅促進法)、「分譲マンションストック500万戸時代に対応したマンション政策のあり方について」の答申案等(いずれも国土交通省)では、平成18年6月施行の住宅基本法の方向性を踏まえ、マンションストックの重視を前面に押し出す形で、理事会方式による従来のマンション管理に加え新管理者制度の導入を掲げ、管理方式の選択肢を広げる施策を示唆したほか、耐震化・バリアフリー化を射程とするマンション再生・建替えの重要性を指摘する。これらの動きは、これまでの建築資材の高騰、建築確認申請の厳格化、昨年来の未曽有の経済不況等による住宅着工の落ち込みに対する是正措置として浮上してきたものとして捉えることも可能であるが、このような状況下にあって、住棟の建替えに取り組む住宅団地は今、どのような対応に迫られているのであろうか。建替えが竣工、着工中の住宅とともに建替え実現に向けて詰めの段階を迎える3住宅団地の生≠フ声を聞いた。そもそも管理組合にとっての建替え問題は、いわゆる内憂外患≠フ中にあって、外では様々な規制に対する対応に迫られ、内では「このままにしておいて欲しい」といった声への対応に追われている。一住宅団地の建替え問題への取組みは合意形成という点で、住宅着工の減少、経済低迷、制度変革とはおよそ、無縁の関係の状況の中で孤軍奮闘している。なお、マンション建替え実績の顕著な長谷工コーポレーション(東京・芝)によると、建替え物件に限らず、S&I等を含む200年住宅、長期優良住宅への取り組みは、すでに研究テーマとしてスタートしているとしている。(本紙客員編集委員・明海大学不動産学部兼任講師 竹田智志)


司会(明海大学不動産学部兼任講師・竹田智志)本日はお忙しい中、参加くださり有難うございます。現在の建替え問題を探るという意図で、いくつかの住宅団地の方に集まって頂き、いろいろとお話を伺おうと思っていましたが今日は、エンパイアコープを新宿とすると、なぜかすべて京王線沿線の皆さんに集まり頂いたということになります。この時期、建替え実現に向けた状況を考えると、偶然とはいえ何か意味するものがあるのかもしれません。さて、建替え実現に向け進行中の3住宅団地の皆さんからは、(1)これまでの経緯、(2)事業協力者選定の決め手、(3)管理組合の役割、(4)事業協力者への要望、(5)不動産不況の今、建替え推進のタイミング等についてを中心にお話しを伺っていこうと思います。早速ですが、まずは桜上水住宅団地の平井さんからお願い致します(敬称略)。

立替え実現を控えた住宅団地の場合

平井英一氏(桜上水団地):桜上水でございます。建替えについては昭和61年にスタート。本格化するのは平成16年です。それまでに建替え委員会は7次に渡って検討を重ねてきました。第1回目の建替え決議(平成18年4月)は住居選定等の問題が最大のネックでして、その後の説得も逆効果で、約1年経過後、再度決議を諮るのですが、いわゆる感情的な摩擦が生じうまくいかないといった状況です。区分所有法第70条の一括建替え決議は、全体の五分の四の要件はクリアできるのですが、各棟三分の二以上という要件のクリアが難しいわけです。建物の老朽化に加えて耐震性の問題も浮上し、その調査結果というのは姉歯マンション以下という説明を行っても「問題なし」とおっしゃる。

阿部秀寛氏(多摩NT諏訪2丁目住宅団地):合理的な反対というのではなくてむしろ感情的な反対がありますね。

司会:ディベの協力とはどんな形ですか。

平井:アドバイザーとして日建設計を導入し、その後名乗りを上げたディベ8社のうち平成14年に2社を選定し、その2社が現在も進めているというわけです。そしてこの2社がそれぞれの建築会社を伴ってくるという形になっています。

司会:この2社に絞られてきた理由は何ですか。それと今後の管理組合の役割は。

平井:1社は当団地のもともとの地主で是非にということで、こんな関係からですかね。それから、管理組合理事会だけでの対応は困難で委員会を設けて具体的な課題に対処していくのが大事かと思います。

司会:ディベにはどんな役割を期待しますか。

平井:組合の事業推進についてはディベはノータッチ。主体はあくまで管理組合という対応をとっています。

山岸光之氏(国領住宅団地):ディべが2社という理由は。

平井:1社に絞ってしまうと、その会社に誘導されてしまうのではないか。2社でバランスを保つということでしょうか。

大洞武美氏(府中日鋼住宅団地):プランの作成からディベヘの仕事の流れについて教えてください。

平井:プランは基本的には日建設計と組合で作成し、現在はディベが中心になって詳細に当たるという流れです。


座談会出席者

桜上水団地管理組合法人
(世田谷区・65年入居・4階建17棟404戸)
 平井 英一氏(元専任理事・事務局長/現顧問)
諏訪2丁目住宅管理組合
(多摩市・71年入居・5階建23棟640戸)
 阿部 秀寛氏(建替え担当)
アトラス国領管理組合
(調布市・08年4月新入居・14階建7棟302戸)
 山岸 光之氏(元理事長)
府中日鋼団地管理組合
(府中市・66年入居・4〜5階建32棟702戸)
 大洞 武美氏(現副理事長)
エンパイヤコープ管理組合法人
(新宿区・09年7月新入居予定・13階建地下2階 1棟97戸)
 山縣 知彦氏(元理事長)
司会:竹田 智志(本紙客員編集委員 千葉経済大学非常勤講師)


司会:次に諏訪2丁目住宅の阿部さんお願いします。

阿部:建替えに取り組み始めたのは昭和63年で、いわゆるコンサルは、UR、T工務店、またURという風に続き一度は建替え推進の機運が下降するのですが、その後、優良建築物等整備事業補助金といった助成、コンサルタントにA、事業協力者としての東京建物が登場し、現在はディべに東京建物、住民の合意形成の推進ということでシティコンサルタンツを導入。建替え決議に向けた取り組みを展開しています。また管理組合内の活動としては、建替え委員会を休止して、1階段室1名を前提に建替え決議実現委員会を立上げ、取組みへの強化を図っているという状況です。またユニークな点としては、これらの体制に加え、地元のNPO法人である多摩街づくり専門家会議の協力を得て、ディベ選定にコンペ方式を採りました。

司会:建替えを成功に導く管理組合像とはどんなものですか。ザクッとで結構です、教えてください。

阿部:管理規約をどう浸透させていくかという点と、われわれだけの情報収集というのには限界があるから、外部の力をどう導入するか。その際お金もかかるだろうし、理解を得るということが大事と思います。

司会:次に府中日鋼住宅の大洞さんお願いいたします。

大洞:昨年の12月に建替え決議を行おうと進めてきたのですが、経済危機に遭遇し延期致しました。私共の団地には1棟10戸という住棟が複数ございまして、先程の三分の二のクリアーが不確実な状況にあります。ディベの選考にあたっては、組合内に事業協力者選考委員会を設け、再開発コーディネーター協会を通じ公募いたしました。その中から702戸にきめ細かい対応が出来る、ある程度大きいところを前提に、検討を重ねた結果、藤和不動産、三菱地所が選ばれました。それまでの経緯について申しますと、平成13年から本格的に検討を始め、18年にアドバイザーの協力を得て、建替え構想案として、組合員の意向をまとめ、この構想案をもとにディベ側の協力が得られるかを尋ね、組合員の意向を前提に事業協力者を選定しました。その後、組合員の意向調査をし、事業計画を練り直し、負担金を極力押さえる方法を取入れ検討を進めてきましたが、昨年夏の経済危機で負担金の想定外の増額で、決議は延期するという選択をしたわけです。

司会:プランで採用している容積はどのくらいですか。

大洞:約200%ですか。

阿部:私のところは150%。

司会:とはいえ、敷地の形状も権利関係も全く違う両者ですからね。

山縣知彦氏(エンパイアコープ):建替え決議を延期したことで何か弊害はありませんか。

大洞:それは、やっぱりあります。排水管とか給水管とか。排水管は配管の清掃時に腐蝕が発見され、給水は昨夏、4度も断水する騒ぎが起きました。設備面での老朽化は目に見えて進んでいます。また、私たちの団地は、府中市でも高齢化率が高く、エレベーターの必要性も緊急問題であり、昨年行った耐震診断の結果も評価は低い。今の延期の状況の中でも対策も講じていかなくてはいけません。

司会:これからの管理組合の役割としてはどんなことを考えますか。

大洞:私共にも管理組合、建替え委員会があるのですが、組合は、どんな建物になるかというよりも組合員の合意形成に力を注ぐ。委員会との連動が大事になってくると思います。先程ご指摘があったように、感情の縺れに発展しないように対話を大事にしていきたいと思います。

立替え成功住宅の場合

司会:では次に、建替え決議を終え建替え工事が竣工、着工しているところに訊ねていこうと思います。(1)事業協力者決定の決め手、(2)成功を収めるにあたっての組合の役割、(3)建替え後の感想について教えてください。まずは国領住宅団地の山岸さんお願いいたします。

山岸:ここまで来るのには大変な苦労の連続がございました。当初は土地持ち分と床面積の関係で混乱し、続いて、建替え推進母体の人員入れ換え、次に事業協力者の選定をどう行うかなどについて理事会が採決するという手法を取るようにしました。事業協力者の最初のコンペには9社、それを3社に絞って、そこで組合員による投票を行って、旭化成を選び、コンサルタントのリードの上で先の混乱をまとめていきました。感情的な縺れに発展したケースでは、正・副理事長を女性にお願いし地道な説得活動を進めました。女性ならではのコミュニティが功を奏し、論理を超えて説得活動を続けたことが成功のひとつのポイントではなかったかと今思います。新しい住宅については、少し過密かなとは思いますが大変好評です。

司会:では最後に唯一山手線の内側に位置するエンパイアコープの山縣さんにご報告いただきたいと思います。簡単に等価交換が成立し順風満帆の建替えかというとそうではなく難題に次ぐ難題をクリアしての建替えです。

山縣:これまで発表されました事例と大きく異なるのは、敷地面積があまり広くなく全体でも590坪と狭いのが特徴です。私共のマンションの背中は新宿御苑、都心にしては恵まれた環境に包まれ、交通が至便の立地です。東京コープという会社が造ったマンションで、原宿のコープオリンピア、中野のブロードウェイを造った会社です。昭和38年の完成で区分所有法が施行されたばかり、この辺でいろいろな混乱が生じました。昭和60年頃から老朽化が目立つようになり、建替えへの関心が深まり、建替え準備委員会を設け、実施するというよりは研究を行うといったスタンスでスタートいたしました。当初は、組合員に呼びかけ、ゼネコン・ディベを紹介してもらいました。その中の1社、大手不動産会社が従前の権利者には負担なしに同規模の住戸を提供し、仮住まいの家賃や引越し費用も持ってくれるという好条件を出してくれましたが、バブルがはじけて夢となりました。平成に入って、建物の劣化も一段と進み、建替えへの熱意も高まってきます。その段階で、接道・隣地境界・日影等様々な問題が浮上してきました。それとともに従来の相談相手への不満の声も上がって、新たなパートナーとして野村不動産を選び、一級建築士である組合員の協力もあって、最終的なプランが固まりました。野村不動産は非常に積極的で、1週間単位で会合を持ち、テキパキと進めてくれ、大きな信頼関係を築くことができました。このディベを選考した要因は、良心的でかつきめ細かい対応の姿勢にあったと言えますが、これが成功につながったと思います。それから、最終段階では、管理組合の理事会と建替委員会を一本化する話もありましたが、両者は自ら職能が違うので二本立てで協力する方が好ましいと思います。組合員には先程の建築士さんが居て適切なアドバイスが得られ、また行政サイドと親しい方がいたので多数の組合員が説明やお願いに行った熱意が成功につながったと思います。

司会:どうも有難うございました。内部のコンサルタントというのは山縣さんのところならではという感じも致しますが。建替え検討住宅において、コンサル、ディベというのは今、完全に逃げ腰ですか。

大洞:いいえ。私共のところは、成行きを見て再開しようということで、緩やかな覚え書きを交わし協定を延期しているところです。

司会:この不況を受け、住民が不安がるということはありませんか。

阿部:先頃出来た建替えとの費用比較のため長期修繕計画を公表したところ、例え建替えしなくてもお金がかかるということを知り、不況とは別に差迫った状況にあることが判ったように思います。

司会:本日は貴重なお時間を割いていただき有難うございました。


【2009年2月号4面】
 

【2009年2月号5面】

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2009年2月号掲載)