建て替え

老朽化マンション再生特集/過去の事例から見るマンション再生策選択のポイントとは

 6月の通常国会では、改正「マンション建替え円滑化法」が成立し、「敷地売却制度」が新たに創設され、今年12月には施行となる予定だ。また、先月には国土交通省内に「住宅団地の再生の有り方に関する検討会」が設置され、平成27年中を目途に取りまとめを行うことが予定されるなど、今年は老朽化マンションの再生に関する大幅な法改正や制度改正の議論が続いている。そこで、今月号は老朽化マンションの再生に数多く携わってきた新日鉄興和不動産株式会社常務執行役員の松本久長氏に、マンション再生を考えるにあたってのポイントを聞いた。


 新日鉄興和不動産(株)常務執行役員
 住宅事業本部副本部長兼マンション再生部長
 松本 久長 氏

管理組合にマンション再生の判断材料を提供

―御社は、マンション再生の実績が多数ありますが、どのようなスタンスでマンション再生に携わってきたのでしょうか


 私どもの部署は、当初は建替え推進部としてスタートし、建替えで生じた保留床を分譲するというところから始まりました。しかし、現実には建替えが進まないマンションも多く、また、東日本大震災以降、耐震の不安などの相談も増えたため、管理組合や区分所有者の皆様のニーズにどう対応すべきか考え、昨年の4月からマンション再生部に名称を変更しました。
 そこで大規模修繕工事の悩みがあれば、大規模修繕工事をどのように進めればよいか、耐震の不安であれば、耐震診断や耐震設計について当社と付き合いのある会社を紹介する等、建替えありきではなく、マンション再生に関する様々な課題にアドバイスを行う「再生コンサルティングチーム」という組織を立ち上げ、初動期の相談を受けています。
 実際、相談に来られる方は建替えを検討する方ばかりではなく、建替えは非常にお金がかかるので、修繕で良いと言う方もいます。私どもは、管理組合の皆さんに、マンションの再生には修繕・改修もあるし、建替えもある。それらを比較検討して、経済的な面だけでなく、将来の皆さんの生活再建をどうしていくかということも含め、きちんとした情報に基づいてご判断いただいています。
 その結果、このマンションは修繕で延命を図るべきという結論になれば、修繕の詳細な検討のお手伝いをさせていただき、今後20〜30年住み続けるのであれば、建替えの方が経済的に合理的だし、住環境の整備もできるので良いと言うことになれば、具体的に建替えを進めるためのお手伝いをさせていただいています。
 このように、まずはいろいろなメニューの説明を、管理組合理事の方や、管理組合のマンション再生検討委員会といったところへ行い、再生検討の進め方や、一般の組合員の方にどういう形で情報を開示したらいいのか、と言うような全般のアドバイスからはじめています。



 管理組合向けに定期的にセミナーを開催している

経済的合理性が再生策選択のポイント

―これまで相談を受けててきた中で、管理組合が改修あるいは建替えを選択したポイントは何でしょうか


 単純に言えば、今のマンションを建替えた時、余計な費用負担が無く、建替えが実現できればそちらを選択されています。
 修繕は住まいを新築当時の水準に戻し、改修は、今の時代に合った水準にかさ上げしていけますが、法規制の問題や物理的な制約もあり、100%現在分譲されている住まいの水準に引き上げるのは難しい。建替えた場合、今の時代にマッチした新しい建物となって、50〜60年と長期に渡って住むことができれば、住む人にとっては一番良いが、費用負担が少ないことが皆さんが重要視する一番のポイントになっています。
 再生の検討を始めるマンションは、築30年前後の時に2回目の大規模修繕工事を行い、次の第3回目の大規模修繕工事となると築40年ぐらいになるので、その時に、建替えなのか、それとももう一回修繕してさらに15年ぐらい延命を図ろうかと迷い始めます。
 一般にマンションでは長期修繕計画を作っていますが、最初から60年持たせることを前提に長期修繕計画は作っていません。25〜30年間ぐらいの計画で、かつ計画初期、マンション購入者は、ローン返済時期と管理費や修繕積立金を支払う時期が重なるため、なるべく費用を安くしたいと考える方が多い。マンション分譲業者も、初期費用が少ない方が売りやすいという側面もあるため、最初は修繕積立金を低く設定し、長期修繕計画を見直す度に積立金も上げていきますが、その時の個個の経済状況により、負担が可能な人と難しい人がでてきます。
 そのため、理想的な長期修繕計画はあっても、メニューを完璧にこなしている管理組合は少ないように思います。修繕箇所によってはまだもちそうだから、次の修繕に先送りということがどんどん積み重なって、3回目の修繕には積立金が足りなくなり、一時金を徴収しようにも住んでいる人自身の高齢化が進み、年金生活者となって、一時金の徴収も難しいということが起きていきます。
 そこで、管理費の負担等、住んでいる方の将来の生活設計も考慮して、今後も費用負担が可能か、また建替えで費用を負担しても、メリットがあれば建替えで話が進むというように、経済的な合理性が皆さんの判断のポイントになっています。
 改修を選択された管理組合は、諸条件を比較検討したうえで、建替えをするための多くの条件が整わなかった場合です。具体的には、物理的条件が、経済的条件に大きく影響を与えた場合。物理的条件とは法改正等により、容積率等の建物に関する規制が、マンション建設当時とは変わっているため、同じものが建てられないという場合は改修を選択せざるを得ないことが多いと言えます。

今後の建替えについて

―これまでは容積が余っているなど、条件の良いマンションの建替えが進みましたが、これからの建替えについてはどのように考えていますか


 これまで建替えがうまくいったケースで、容積が余っていたというケースは、旧公団や住宅供給公社が供給した公的な団地が圧倒的です。
 民間が供給したマンションの場合は、経済的な計算から容積を使い切っているため、そういうところを単純に建替えるのは難しいでしょう。
 これまで当社が携わった建替えのケースでは、隣接地を巻き込んで、容積が多めに使えるような敷地に広げて建替えた事例もあります(次頁写真1・2参照)。
 あるいは総合設計制度などを使って建替える等いろいろな工夫はしてきましたが、例えば、建物が建てづまった場所で、敷地が不整形なため、この敷地のままでは建替えができないと言うようなマンションはたくさんあります。
 そういったマンションでは、いろいろな制度等を利用しても建替えの条件が良くなるとは限りませんから、長期修繕計画に基づき修繕をして、あと何年建物をもたせるのか、その際、将来的にかかる管理費、修繕積立金の負担等も合わせて考えると同時に、一時的に負担は増えますが、建替えすることにより、長期修繕した場合より、慣れ親しんだ場所で生活できる期間が延び、かつ時代にあった新しいマンションで生活できるといった、定性的な評価と定量的な評価の両方の情報を皆さんに提供して、修繕・改修か、建替えかをご判断いただくと言うことになると思います。



  建替え前の旧花咲団地


 隣接地を買い取って建替えた旧花咲団地(現横濱紅葉坂レジデンス)

高齢者が抱える不安の解消もポイント

―建替え等を進めるうえで、高齢者の対応が課題になることが多いと聞きますが、どのような課題が多いのでしょうか


 資金的な負担と仮住まいの問題が大きいです。
 例えば、高齢者の方は、当初はマンションに夫婦と子どもで住んでいたが、単身世帯になったため、今住んでいる部屋の大きさは必要ない場合があります。そこで、建替えた場合、部屋を小さくすることで現金を手元に残せることがあります。
 建替えをする場合に、これからどういう生活設計をするのか、こうすればこういう資金繰りができますよ、という説明を行い、先々の不安を解消することで、資金的な問題を解決することもあります。
 また、本当に資金が無い方の場合でも、今の住まいを現金化することで、場所は変わりますが、近くのマンション等を買って住むことで、仮住まいの心配無く生活ができるというような提案をすることもあります。
 高齢者の方は、お金がいくらあっても不安なんです。でも建物の老朽化や耐震性に問題がある場合、ここで最後を迎えることができないかもしれないということを理解していただければ、次にどうすべきかという考えに移っていける。住むところが無くなるという不安にどう応えていくかがポイントになっています。

―仮住まいについては


 高齢者の方は、現在とまったく環境の違うところに住むことに、精神的に不安があります。そのため、なるべく知り合いのいるマンションに住み続けたいといわれることが多いのです。
 また、高齢者の方は、他の行政区に転居することで医療等の行政サービスの補助額が変わって、自己負担が増えることがあります。今この行政区に住んでいるから、この程度の自己負担で週に一回病院に通えるが、仮住まい先の行政の補助基準が変わって自己負担が増えてしまう。あるいは、かかりつけ医から離れてしまうことで、通院もままならないというような不安に対して、どう仮住まいを見つけるかと言うことも大きなポイントになります。
 これまで当社が携わった事例では、建替えマンション近くの空室となっていた社宅を借り上げて、20世帯分ぐらいの内装も仕上げて、まとめて仮住まいしていただいたこともあります。そうすると不安にならずに、顔見知りの人たちと今までどおりに生活し、建物ができたらそのまま戻ってくるという対応をしたことがあります。

敷地売却制度は最後の選択肢〜改正円滑化法について

―先の国会で成立した改正マンション建替え円滑化法や、7月22日には団地再生検討会が設けられるなど、マンション再生は大きな節目を迎えつつありますが、今回の改正法をどのように評価していますか


 今回の法改正で、衆議院、参議院の付帯決議(※参考資料参照)では、団地の再生に関しても検討するということがはいっています。また、これから10年、20年経てば、新耐震マンションでも築30、40年超のマンションが増えてきますし、現時点で新耐震であっても築30年を経過したものがあります。そこに社会的陳腐化も重なることになるため、本当に旧耐震マンションの建替えだけの法改正でよいのかという議論がずっとあります。
 当社や他のデベロッパー等も参加している「老朽化マンション対策会議」では、国会議員や国土交通省に対し、まず旧耐震マンションを救うということはわかるが、これからは新耐震でも老朽化により、建替え等を考えなければならないマンションが出てくるため、法の整備を引き続きやるべきと答申しています。
 ほかに気にしていることは、敷地売却制度は建物を取り壊すことを前提にしています。今後ストックの時代に入っていくことを考えると、旧耐震でも耐震改修ができれば、敷地売却制度の手続きに乗せても、何が何でも取り壊さなくてもいいのではないのか。耐震改修して再利用してもいいのではないかとも申し上げています。
 敷地売却制度は、いろいろな議論をしたうえでの、最後の選択肢だと思っています。
 高齢者の方は長年そこで住まわれて、多くの方と時間を共有されている。売却をしてどこかに住み替えるといっても、気持ちが切り替わらないこともあるでしょう。
 そこで、まずは改修か建替えか、本当に建替えはできないのか。そうであれば、最後は耐震性不足という不安を抱えたまま、あるいは階段室型のマンションなどエレベーターも無い不便な生活を続けるより、敷地売却制度で今の住まいを現金に換え、少しは今よりも利便性の高い中古の住宅に移って生活を再スタートするという選択をしていただく。
 最初から敷地売却制度で行くというのは、筋が違うと思います。そこに住んでいらっしゃる方の気持ちを考えなければならないでしょう。
 この制度が有効なのは、都心のワンルームマンションや借家化の進んだマンションでしょう。特に都心マンションは借家化が進んでおり、今回の法制度は、補償金は必要ですが、借家権をクリーンにできるため、投資家が多いマンションには使えるかもしれません。
 しかし、現在住んでいる方が多いマンションでは、徹底的に改修か建替えかという議論をしていただいて、それでも難しいという時に、敷地売却制度で行くということになるのではと思います。初めから敷地売却で行くというのは、住んでいる方の意向を無視することになります。

―長時間お話を聞かせていただきありがとうございました。 (終わり)


※参考資料 衆議院・参議院で加えられた改正マンション建替え円滑化法の付帯決議(抜粋)
一 老朽化マンションについて、建替え、改修を含めた再生事業が円滑に進むよう、マンション敷地売却制度の創設による老朽化マンションの建替え等の促進効果を見極めた上で、マンションに係る権利調整や建築規制のあり方等について、引き続き多角的な観点から総合的な検討を行うこと。
二 特に、既存の老朽化マンションの多くを占め、更新のニーズの強い団地型のマンションについては、建替え等の促進を図るため、まちづくりの観点も含め、団地再生のための施策のあり方について幅広く検討を行うこと。
三 既存ストックを有効活用する観点から、区分所有者が改修か建替えか売却かを的確に判断できるよう、判断基準の作成、普及に努めること。

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2014年8月号掲載)