建て替え

高経年マンション再生特集/高経年マンションの合意形成は「管理組合の体制づくり」と「組合員間で情報がしっかり伝わるようにする」こと

 高経年マンションを再生させるには、区分所有者間の「合意形成」を行って、最終的には総会で再生手法の決議を行う必要があります。特に「建替え」を選択しようとしている管理組合では、以前のような容積率にゆとりのある好条件なケースは減ってきており、費用負担がかかる前提でどう合意形成を進めたらよいか、悩まれています。そこで今回は、管理組合が合意形成を進めていく上での準備と、理事の方達に知ってもらいたいポイントについて、座談方式で、現場の最前線で活躍されている新日鉄興和不動産(株)の各々の担当者にお聴きました。

―本日座談会にご参加いただいている方は、マンション再生にあたり、どのような業務に携わっていますか。


大和田 わたしは、管理組合の総会で建替えを本格的に検討することに決めた後、区分所有法に基づく建替え決議に向けて管理組合の合意形成活動を行っています。建替え決議に必要な検討作業は多岐にわたります。中でも組合員向けの全体説明会や個別面談を通じて、建替えの情報を正確に組合員の皆様にお伝えし、意向を聴くことが重要な役割です。
太田 わたしは、初期段階において再生検討の課題整理をすることが主な役割です。課題を整理し、大和田チームにバトンタッチする迄に、管理組合の体制をしっかりまとめて再生の方向性が決められる状態にしていく。そういった面では、わたしは一番最初に管理組合の皆さんと接することが多いです。
大島 わたしは大和田と同じ役割を担っていますが、最近は難易度の高いご相談案件等、様々なケースが増えたため、早い段階から太田のコンサルチームと連携して取り組むこともあります。建替えを本格的に検討することを総会で決めてから(建替え推進決議といいます)は、管理組合の集会室に月に数回お伺いして、区分所有法に基づく建替え決議に向けた合意形成活動を理事メンバーの皆様と共同して進めています。!



 新日鉄興和不動産(株)住宅事業本部
 マンション再生部再生コンサルティングチーム
 マネージャー・太田 輝之 氏

検討している情報をしっかり伝えるには修繕・建替えの検討の前に

―皆さんのところに相談に来る管理組合は、はじめはどういったきっかけが多いですか。


太田 きっかけは当社の再生セミナーに参加された管理組合さんが多いです。年に2回行っている当社セミナーでは、毎回スタッフで話し合ってその時に旬なテーマを絞り込んで企画していまして、前回のテーマは「高経年マンションの耐震性」を取り上げました。建物維持に不安を抱えている多くの管理組合から質問やご相談を頂いてます。

―相談に来る管理組合の傾向はありますか。


太田 傾向としては高経年化したマンションで何か検討をしたい意欲を感じていても、どう進めていいかわからないという管理組合が多いです。あるいは検討を始めたけれども、思う通りに前に進まないで困っている管理組合ですね。建物の老朽化によって修繕や耐震補強など取り組むべき課題が突然迫ってきたことで焦ってしまい、管理組合内部の情報共有が上手くできていないようです。


―相談を受ける中で、話が管理組合の検討組織のメンバーだけで進みすぎているなあと思うことはありますか。その場合何を心配されますか。


太田 わたしが携わっている業務では、はじめに、理事長や検討委員会等の役職者など、再生検討の中心の方とお会いすることから始まります。最近よく感じることですが、そのような方達は、建替えに関する法律の知識等に詳しいことが多くきっと独学で勉強されているのだと思います。しかし、時に他の組合員さんの事を気にはしているけれども、知識の差が災いとなり、再生検討の中心メンバーのペースで検討を進めてしまっていることがありますね。合意形成ではバランス感覚をもって進めることが重要です。
大島 わたしも再生検討の中心メンバーの皆さんは、本当に真剣に取り組んでいると思いますが、それゆえに時間経過と共に組合内部で情報格差が生まれる場合があります。つまり、中心で取り組んでいる人たちはどんどん知識がつくけど、それ以外の一般の組合員はなんだかわからないまま、「あの人たちが勝手にやっている」と思ってしまう関係性です。本当にちょっとした意識の違いがボタンの掛け違いとなり、それが誤解となるんです。
大和田 わたしはそういった場面の時は、再生検討の中心メンバーの皆さんにできるだけ丁寧に検討状況を伝えることを提案しながら全体の流れを軌道修正することを心がけています。
 また、建替え検討を進めている中心メンバーの皆さんには、マンション再生は、修繕をして、将来に渡って建物を維持していくのか、それとも建替えをして、新しい建物に資産を移し替えるかの両方をしっかり検討することが必要と伝えています。とにかく肝は、情報が一般の組合員まで行き渡るような合意形成活動です。


一番の不安は「費用負担」。その他は?

―方向性が見えてくると、いろいろな不安がでてくると思うのですが、みなさん一番何が不安なのでしょうか。


太田 高齢な組合員の方からよく伺うのが費用負担に関する不安です
大和田 特に建替えの場合は仮住まいが必要です。また耐震補強でも工事内容によっては一定期間の仮住まいが必要な場合があります。さらに建替えの場合は、引越しに伴うゴミの処分が問題となります。長く住んでいるといろいろな物が増えて、その処分にかかる費用と労力を気にされます。高齢の方ほど、そこに抵抗感を示す方が多いです。
大島 高齢者の方が、一人でずっと長く住んでいると、隣にいる誰々さんとも長く一緒に住んできたのに、建替えを機に、どこか一人で別の場所に住まなければならないんじゃないかという不安を持たれることがあります。そのような不安の中身を突き詰めて、先ほどの例なら、お隣さんも含めて、同じ賃貸マンションで暮らせる等の解決策を考えています。


―費用に関する不安はどうしていますか。


太田 今までのケースとして、残っている修繕積立金を分配して、仮住まい費用の一部に充てる方法がありました。また最近の建替え事例では、新しい住まいは今ほど広さを必要としないので、住戸を小さくすることで、費用負担を減らす方法があります。実際には管理組合の状況や検討の段階によって、はっきりとした効果を説明できませんが、当社の過去事例では、組合員それぞれのお悩みに対して丁寧に対応しています。その他は、リバースモーゲージを使った高齢者の特例制度等の方法がありますね。不安の解消には、まず何が不安なのかをよく聴くことをこころがけています。



 新日鉄興和不動産(株)住宅事業本部
 マンション再生部建替推進第一チーム
 マネージャー・大和田 祥之 氏

現状認識から始まるマンション再生

―これからは条件が悪く、建替えはできないけど、それでも何らかの再生策は検討しなければならない。例えば修繕で行く場合でもやはり費用はかかると思いますが、何らかの解決策はあるのでしょうか。


太田 検討組織のメンバーの皆さんにお伝えしているのは、一般の組合員の皆さんは、老朽化した建物に住んでいることに、そんなに不安を感じていないことがある点です。
 現状のまま日々の生活をすごしていく上で将来の建物維持にどれだけお金がかかるかと言うことを理解できていないと、建替え費用との比較において、その費用対効果の判断がつかないということです。まずその考え方を理解していただくことが必要と思います。つまり、建替えで話を進める管理組合においては、まず建物の現状を把握し、将来の維持費を管理組合として認識していただくことが大切と思います。
大和田 今の話がまさに私の担当する築約50年の都内のマンション事例に当てはまるんですが、そこでは修繕積立金はほぼゼロ。管理組合としても建物を維持していくという方法も負担がかかるので難しい。もう資産整理をするという発想で、建替え決議を迎えました。 当社の扱った中でも事業条件は厳しかったですが、やはり、管理組合内で現状認識がしっかりできていたために建替えを選択するしかないという判断に至りました。
 その過程では、当社もお手伝いしましたが、管理組合のコアとなる方たちも、組合員向けにしっかり働きかけをしていただいて、情報格差が生まれないようにし、組合員の中で、しっかり現状認識ができていたことが、合意形成を進める大きな要因となりました。



 新日鉄興和不動産(株)住宅事業本部
 マンション再生部建替推進第二チーム
 マネージャー・大島 賢吾 氏

マンションの課題に対応できる体制づくりを

―先ほどの事例では、管理組合の中でコアとなる方がでてきましたが、必ず出てくるのでしょうか。


太田 高経年マンションでは、再生の問題意識を持たれて、情報収集を始める方がいると思います。それでも、情報収集していく中で様々な課題に直面すると検討が止まることもあります。
大島 そのようなときに、課題に対応できる体制をしっかり作れるかが大切になってきます。
 中心になる人が一人二人で進めるのではなく、体制をつくり、進める必要があります。加えて、はじめから建替えか修繕かを決めつける発想を持たずに、問題意識を持って課題に取り組んでくれる人であったり、マンション内で顔が広い人であったり、そういった適材適所の人を集めていくことが、組織づくりのポイントだと思います。


―マンション再生策を検討できるような体制をつくってから、議論をスタートさせるということですね。


大島 やはり最初の体制づくりの段階から一緒に作業をしていないと、本当に膝を詰めた話をする段階になって、お互い困った時に、詰め切ることができないんです。
 そのような信頼関係ができていると、例えば、事業条件が建築費の高騰等で当初見込みと違っても、一緒にしっかりと課題解決に向けた対応ができます。つまり事業環境を阻む経済状況をどう乗り越えるか。
 そのようなことができる信頼関係の構築を大切にしています。
大和田 事業条件の数字ありきで建替えを決めようとする管理組合もありますが、数字ありきでは、経済状況によっては、建替えが進まなくなってしまうことがありますので、管理組合と信頼関係を築きながら、経済状況の変化に対して、事業をどう進めるか、管理組合の方にお諮りしながら進めていきます。
大島 情報の発信に関して言えば、検討が進んでいけば個別面談があるんですが、直に権利者さんとお会いして、情報を届けることをしています。 そうして何度かお話させていただく中で、区分所有者の方の手帳の面談予定日に「新日鉄」と書かれていたのが、「大島さん」と書かれていたのを見ると、信頼関係ができてきたと喜びを感じます。


―長時間お話を聞かせていただきありがとうございました。 (おわり)


※企業プロフィール 新日鉄興和不動産株式会社
 新日鉄興和不動産株式会社は、2012年10月1日、みずほグループの興和不動産と新日鐵住金グループの新日鉄都市開発の経営統合により誕生した、総合不動産会社。
 興和不動産は、東京都心のプライムエリア(千代田区、中央区、港区)でのオフィスビル開発・賃貸を中心に事業展開するとともに、みずほグループの有する機能や優良顧客基盤を活用し、金融と融合した総合不動産サービスを提供。
 新日鉄都市開発は、製鉄所周辺の大規模遊休地開発で培ったノウハウを活かし、都市部の市街地再開発、建替え、等価交換など、都市再生分野のマンション開発・分譲を中心に、独自の強みを持つ総合デベロッパーとして、多様な事業を手掛けてきた。
 このように、ビル事業と住宅事業を両輪とするバランスの取れた事業ポートフォリオを持つ事が同社の特色である。
 また、1986年から同社が取り組むマンション再生のひとつの形である「マンション建替え事業」では、これまで業界内トップクラスの17件の建替決議済物件があり、2005年には業界に先駆け、マンション建替え事業に取り組む専門組織「マンション建替推進グループ」を設置。2013年には同組織を「マンション再生部」として改組し、現在も多くのマンション再生をサポートしている。


企業概要
■商  号 新日鉄興和不動産株式会社
■所 在 地 東京都港区南青山一丁目15番5号
■設  立 1997年3月24日(創業1952年10月15日)
■資 本 金 198億円(2015年3月31日現在)
■売 上 高 1584億円(2014年3月期、連結ベース)
■業務内容 オフィスビルの開発・賃貸・管理/外国人向け高級マンションの賃貸・管理/マンション・戸建て住宅の開発・分譲・賃貸/不動産の売買・仲介・コンサルティング/不動産証券化商品の企画・出資

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2015年10月号掲載)