大型団地の受水層加圧給水システムから直接給水/直結増圧給水へ:2002年3月~5月掲載
M住宅
(神奈川県・横浜市)
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中層5階建5棟129戸、低層2~3階建21棟117戸への導入改修事例
はじめに
旧厚生省では、1991年6月【21世紀に向けた水道整備の長期目標】を策定し、安全でおいしい水の供給の推進が図られており、その一つに直結給水(受水槽を介さない給水方式)の範囲拡大がテーマとして取り上げられている。
従来、直結給水の範囲は2階建ての建物まで、3階て以上は受水槽方式による給水が原則とされていた。これを10階建て程度の建物まで拡大し、欧米先進国と同程度までその範囲を拡大していこうとしている。
このような背景のもと、平成7年10月より東京都水道局にて「増圧直結給水方式」が導入されたのをはじめ、各地の自治体が増圧直結給水方式の導入をしてきた。横浜市水道局でも平成12年10月より増圧直結給水が認可されることとなった。
LCC(ライフサイクルコスト)の検討
管理組合では、長期修繕計画の中で、給水設備改修について委員会を設置して検討中であったが、折しも横浜市水道局が増圧直結給水の導入を打ち出したのを機に、コンサルタントに依頼し、給水設備の改修方法の比較検討に入った。
当団地の従来の給水システムは、一旦受水槽に貯水し加圧給水ポンプで各棟に給水していた。建築後19年を経過し、受水槽、給水ポンプの劣化、非常時用の発電機は部品も無く修理不可能な状態であり、埋設給水配管にも漏水が散見されていた。
そこで、従来の給水システムでの改修費用(受水槽・給水ポンプ・埋設配管等)と直結給水システムに変更した場合の今後40年間のLCCのシュミレーションを行った結果、直結給水システムの方が改修費用及び維持滋養負担の面で有利であり、ランニングコスト(電力量料金)の面でもはるかに有利であることが分かった。
管理組合の取り組み
管理組合ではコンサルタントの答申を受けて臨時総会を開催し、直結給水化工事の承認を得て、平成13年9月より工事に着手し、14年2月9日に竣工式を執り行った。
直結増圧給水システム 横浜市水道局の場合
直結増圧式給水を希望する場合には、事前に所轄の営業所等と協議を行い「直結給水事前協議申請書」を提出しなければならない。同協議書提出後、直結増圧式給水の可否は管理者(水道管理所)が判断する。
直結式給水には、1. 直圧式、2. 増圧式(増圧猶予)、3. 直結・増圧式併用の3方式があり、事前協議においてその建物に可能な給水方式を選択する。
- 1 直圧式
- 配水本管から分岐された配管に直接接続する方式で3階までの建物に適用される。当団地の場合21棟117戸にこの方式が適用された。
- 2 増圧式(増圧猶予)
- 配水本管の口径75mm以上から取水する場合で、配水本管の水圧が3.5kg/平方cm以上であれば、5階建物であっても現時点で増圧ポンプの設置を猶予される。猶予期間は横浜市全市の配水水圧の調整(減圧)を行う予定の2010年まで、猶予されたとしても2010年には増圧ポンプの設置が義務付けられる。当団地も増圧ポンプ設置の猶予を希望したが、団地周辺の水圧調査を実施(水道局で調査)した結果、必要水圧3.5kg/平方cmに対し2.9kg/平方cmであり猶予されなかった。
- 3 直結・増圧併用
- 今回当団地で採用した方式はこの方式である。
上図1階~3階は直結給水方式とし、1階~5階へは増圧ポンプを設置し給水した。5階建棟は5棟あり増圧ポンプを3台設置した。
5階棟-1棟(25戸)
5階+1部3階-4棟(26戸×4=104戸)
〔横浜市水道局の設置基準〕
*「設置基準」は水道局によって違いがあり、各水道局の配水計画の事情によって独自の「設置基準」を定めている。当該水道局の「設置基準」を満たしたものとしなければならないので、事前協議において確認することが必要である。
直結増圧給水の場合
- 給水量の計算は、BL(ベターリビング)規格による。
1住戸4人、1人1日250リットル - 1日最大使用量は1引込み50立方m以下とする。
- 増圧ポンプへの引込口径は50mm以下で、1引込み50戸以下。
- 1建物で50戸を超える場合は、1建物2給水系統まで可。
- 10階程度の建物を対象に市全域で実施。
- 需要者の負担で増圧ポンプを設置。
- 2010年に全市配水水圧の調整を行う予定。
直結給水の場合
- *引込管50mmの場合上限18戸。
- *引込管75mmの場合上限30戸。
最終給水開始3ケ月後の報告
- 「水の出が以前に比べて良くなった」という居住者の感想が多くあった。
以前の加圧給水の場合の給水圧力は4kg/平方cmの設定であったが、直結後の水圧は昼間では5kg/平方cmまで上昇していたので、そう感じたようである。
水圧上昇の影響で、既存の古い水栓で止水しきれないための水の滴り、トイレのロータンクからの水が完全に止まらない(パッキンの不良による)などが起き、水道料金が平月に比べ多いとの報告が2~3件あった。この場合水道局では、不具合部分を修理した業者の証明があれば、平月に比較して跳ね上がった料金分は返金するということであった。 - 「増圧給水ユニット」の稼働が極端に少ない。
昼間は本管の圧力で十分給水されていた。給水ユニットが稼働するのは、朝と夕刻のごく短時間のみ稼働するようである。このことは3の電気料金から見ても明白であった。 - 「電気料金」は以前の17%であった。
加圧給水時の13年1~3月の合計が120,000円であったのに対し、直結増圧給水後の14年1~3月の合計は21,114円であった。この内、直結増圧給水後のランニングコスト(実際にポンプが稼働した電気料金)は3ケ月で約1,836円であり、大半が基本料金の19,278円(基本料金2,142円×3台×3ケ月)であった。
また、給水ユニットのモーターはインバーター制御で、要求給水量に応じた回転数で運転されているので省エネ効果を発揮している。
※増圧給水ユニットは3台あり、1ユニットのポンプ容量は1.5KW、契約2KW - 「維持・メンテ費用」の低減
受水槽を無くしたことによる、水槽の改修費、水質検査費、およびポンプのメンテナンス費用などが大幅に低減された。ただし、新規に設置した給水ユニットのメンテナンス費用と、修理部品代の積み立ては必要であるが、後者の方がはるかに少ない費用で済んでいる。 - 「旧給水棟の有効利用」
給水棟ポンプ類の機器撤去後に、9m×11m・階高4mの空間が出来たことと、ポンプ室上部の受水槽2槽部分にも横からの出入り口を開口し、2槽間を連通開口し1槽とし、水槽であった所も徹底的に利用しようと管理組合では夢を描き、アイデアを出し合っている。
【設置基準】の追記
前項で直結増圧給水の設置基準について「横浜市水道局」の場合を例に述べたが「設置基準」は水道局によって違いがあり、各水道局の配水計画の事情によって独自の「設置基準」を定めている。当該水道局の「設置基準」を満たしたものとしなければならないので、事前協議において確認することが必要である。
(文責・今井建築設備設計事務所 今井哲男)
発注者から見た経過報告
~M住宅管理組合 長期修繕運営委員会 岡本 喆二様~
本コメントは、同様の改修を検討している管理組合の皆様の参考になればと考え発注者サイドとしての経緯・経過を中心に寄稿しました。
工事設計と監理
- 管理組合の立場と考えを充分に理解し、住民サイドの設計監理ができる専門家探し
- 設計・監理者との出会いは、日住協主催の研修会から
優秀な工事業者の選定
- アメニティ紙上での工事業者の公募掲載が役立つ
- 数多くの応募があり、数回に渡りプロポーザルを行う
- 経費、工事内容も組合の納得のいく工事が遂行される
専有部室内立入工事の住民協力
- 住民の工事参加意識(水栓・部品の実費交換がご婦人に注目され、楽しみながらの工事協力が得られた)
- 工事説明会に9割以上のご家族が出席(会場での蛇口展示で、数多く夫婦同伴出席も)
- 工事事務所に関連商品・部品の展示コーナーを併設(工事内容の理解に貢献)
給水関係管理からの解放
- 日常の水質管理からの解放
- 新設の増圧ポンプ電気代も17%に激減
給水設備棟の後利用についてのアイデア募集
- 大きな独立施設のため、上階の水槽部も含めて組合書類保管、防災備蓄、自治会倉庫リフォーム工事期間の家財保管など、夢のある将来の利用方法のアイデア募集中
〔工事関連のお問い合わせ先〕
並木2-9管理組合(9:00~16:00 月・水・金)
横浜市金沢区並木2-9 TEL045-785-2518
<アメニティ新聞234号~236号 2002年3月~5月掲載>