耐震補強工事と環境改善工事:2006年4月号掲載
マンション概要
Rマンションは、総戸数64戸、地上7階建て、練馬区内の国道沿いに建つ典型的な都心型マンションである。このマンションはライオンズマンション100棟記念として建てられ、大手ゼネコンが建設に携わっている。
今回の工事は第2回目の大規模修繕工事であるが、大規模修繕工事と併せて、耐震補強工事も実施した。当マンションは1980年に建設されており、現在の新耐震基準に変わる直前の建物である。構造図を見ると新耐震基準を意識した設計になっているものの、エントランス廻りに2層吹き抜けの大きなピロティがあり、耐震性に不安の残る構造となっていた。そこで、居住者が安心して住みついでいける住環境を整えるために、まずは耐震補強に対する検討が大きな課題となった。
一方、大規模修繕工事も、単に外壁を修繕することに留めず、今後のメンテナンス性、防犯性、居住性、美装性を向上させる様々な「環境改善工事」を積極的に検討した。
耐震補強工事の検討
耐震補強工事を実施するためには、耐震診断を実施し、その結果分かった弱部に対して耐震補強設計・補強工事を実施するという流れが一般的な考えである。ただし、マンションの場合は、耐震診断の結果、専有部分の補強をするのが望ましいという判断が出ても、工事の実施は難しい。そこで、今回のプロジェクトでは、まず耐震診断からという一般的なやり方とは異なる方法をとった。現在、建設会社は耐震補強工事の実績を増やしており、耐震に対する技術力の向上は相当なものである。そこで、建設会社数社に呼びかけて、「人命の保護」と「共用部分における補強」を条件に耐震補強方法を検討した。最終的には、新築時に施工を担当した大手ゼネコンが、独自の手法で耐震診断と補強の詳細設計をし、工事の実施に至った。なお、このゼネコンは設計までを担当し、施工は大規模修繕工事を請け負った別の建設会社が実施している。今回、こういった手法をとることで、安価に補強工事が行えたことは、居住者にとって大きなメリットとなった。
環境改善工事の検討
居住者の安全性を向上させるという観点では、「防犯性の向上」が挙げられる。当マンションは都心に近いので、不特定者の出入も少なくない。そこで、今まで自由に出入りできたエントランス廻りをオートロック化した。オートロック化に伴い、エントランスホールを大規模に改修し、各戸インターホンからの開錠システムの新設、意匠性を考慮した侵入防止柵の設置などを実施した。
その他、外観に大きな影響を与える「バルコニー手摺」の交換を実施している。新築時の鋼製手摺をガラスパネル入りアルミ製手摺に交換した。これにより、鉄部塗装などのメンテナンスを大幅に軽減できると共に、建物全体のグレード感の向上が図れた。
また、外壁色も今までの赤レンガ色から、ベージュとブラウン色のツートンカラーにし、明るい色彩の新しいマンションとして生まれ変わった。
おわりに
耐震性や防犯性の向上は、新旧を問わず様々なマンションに共通する課題である。しかし、区分所有という性格を持つマンションは、必要性に迫られながらも、これらの工事を実現するのは容易ではない。今回の工事では、管理組合執行部の皆さんと何度も話し合い、都心型マンションとしての問題点について多くの議論がなされ、多岐にわたる改善事項や耐震補強工事を実現するに至った。これらの成果は、都心型マンションのこれからのモデルとなるに違いない。
(株)スペースユニオン 一級建築士 藤木亮介
<アメニティ新聞283号 2006年4月掲載>