『色彩計画』にも注力して大規模修繕工事を完了:2006年9月号掲載
東船橋の街と共に誕生
「Hマンション」は、23年前の1983年11月に、JR総武線・東船橋駅から徒歩7分の新興住宅街の一角に建設された。当時は東船橋駅が開業し、まだ2年しか経っていない「新しい街」の創成期で、周辺は戸建住宅の宅地整備や建築中の家が多かった時代である。その中で14階建ての高層棟や4階建ての低層棟を含む全10棟・332戸の真っ白な大規模集合住宅が誕生した。
現在は、区画整備も整い、近隣は戸建住宅を中心とした閑静な住宅街となっている。近所に「宮本台北公園」があり、緑も豊かな周辺環境である。
今回、第2回大規模修繕工事の設計・監理をおこなった、株式会社三衛建築設計事務所は、集合住宅の外装も街の景観を構成する大切な要素と考え、修繕委員会に対して「色彩計画」を提案した。
「色彩計画」とは…?
04年の「景観三法」施行以後、視環境を整備する動きが活発になり、外装の「色」が街や周辺住民に与える影響を配慮し、「建築物の外装は、公的要素がある」と考え、外装の色彩を計画的にコントロールする手法である。
「東船橋ガーデニア」同委員会は同事務所の「色彩計画」を積極的に取り入れ、今年2月から大規模修繕工事をおこなった。外装を現状の「真っ白」から一新して「明るいブラウン系」をベースに、合計4色で構成し現在の「街と調和する」集合住宅へと外壁修繕および塗装を施した。その他、屋上防水・バルコニー防水・外階段の補修・共用部照明器具の交換など、建物の共用部を中心に工事を進め、8月末に第2回大規模修繕工事を完了した。
前回の不備を補う
約10年前におこなわれた、第1回大規模修繕工事で外階段にノンスリップを取り付けていた。その際、ノンスリップと階段の接合部分から水が浸水し、内部に水が滞留したため鉄骨階段の腐敗が顕著な状態に陥った経緯があり、今回の改修では腐敗部は切断して段板を鉄板で新規作成し、上から被せるといった「被せ工法」を採用し、床仕上げは階段用塩ビシートとした。費用的にもかなりのコストを要しており、施工も大変苦労した工事であったが、今回の工事では、こういった教訓を活かして下地補修や躯体改修についても、入念に施工している。
これからの街の景観と集合住宅
昨年、埼玉県営浦和高層住宅の外壁に広告掲載を募集する計画が自治体から発表された。広告掲載料金は、年間105万円で1年以上5年以内の使用期間で募集し、収入は県営住宅の維持管理費にする大胆な発想で、マスコミも採り上げていたが、街の景観に与える影響を考えると、「無条件で賛成はできない」という意見も多く聞かれた。それだけ、集合住宅の外壁と街の景観は密接に結びついている。
その点、同住宅の今回工事は街の景観に配慮し「色彩計画」を基におこなわれた成功例である。
これからの大規模修繕工事は、居住者だけでなく、街の景観にも配慮する「心の余裕」が管理組合に求められているようだ。
<アメニティ新聞288号 2006年9月掲載>