旧耐震マンションの耐震補強工事:2007年1月号掲載

Tハイツ (東京・豊島区)

【マンション概要】

 Tハイツは西武線沿線に建ち、東長崎駅からその全容を望むことができる。1974年に竣工した当マンションは、当時としては先進的な複合用途型マンションで、1階に大型スーパーマーケット、2階に8軒のグループクリニック、そして3~10階に150戸の住居が入っており、新築当時、東長崎駅前の一大開発事業であったことが伺える。

今回の外壁を中心とする大規模修繕工事は、築32年目であるが、2回目の工事である。竣工後10年目に第1回目の工事を実施した後、22年間、部分的な補修しか行われてこなかった。
 そこで、今回の工事では、徹底的にひびわれや鉄筋露出部分などの躯体改修を行うとともに、経年して付着強度が弱くなっている仕上塗膜を剥離することにした。また、複合用途型マンション特有の構造的なバランスが悪い建物なので、耐震補強に対する検討も大きな課題となった。

Tハイツ
(東京・豊島区)

【耐震補強工事の検討】

 今後も安全に住んでいけるように建物を再生する上で、耐震性能は居住者の最大の関心事であった。当建物は1974年竣工であるので、71年の建築基準法改正後の建物であるが、81年に改正された新耐震法には適合していない。また、1階、2階部分には兵庫県南部地震で被害の多かった独立柱(壁の付帯しない柱)が多くあり、壁量の多い3階以上とは構造的なバランスが異なっている。

 したがって、1階、2階の耐震補強は、今回、是非とも実現したい工事であったが、1階に大型スーパーマーケットがあり、その内部は、営業障害の問題から工事を実現できる可能性は低かった。そこで、「まずはできるところから補強し、建物が倒壊する危険性を少しでも下げる」をキーワードに、住居部分の1階エントランス廻り、ならびに2階廻りの独立柱の補強をすることになった。

 補強方法の検討は、外壁等総合改修工事の見積依頼に併せて、ゼネコンを中心にプロポーザル方式で行った。5社からの提案に対して数度のヒヤリングを行った上で、補強の効果、補強することによって他の部位に与える影響などを検討し、最終的には1階エントランス廻りと2階廻りの耐震補強工事が実現することになった。

耐震補強
(ポリエステル繊維巻き補強)

【外壁等改修工事】

 外壁の旧塗膜は22年前のものであり、著しく付着強度が落ちていた。そこで、外壁改修工事にあたっては、原則として旧塗膜を全撤去する方針とした。また、当マンションはコンクリート躯体の上にモルタル層が塗ってあり、多くの場所でモルタル層の浮きが確認された。これらの浮きに対しては、ステンレスピンとエポキシ樹脂で筋結し、部分的にはモルタル層を十数m2にわたってハツリ落とした上で、再度、モルタルを付け直すなどの徹底的な補修を施した。

 その他、外壁色を既存の白色からベージュとブラウン色のツートンカラーにしたり、共用玄関まわりの改善をおこなったりして、明るく新しいイメージのマンションに再生させた。

【その後】

 今回の工事の成功は、建物に対する改善もさることながら、区分所有者の意識向上にもつながったようだ。本工事を終えて、区分所有者一人一人の「協力してより良いマンションにする」という意識が強くなったように感じる。

 これらの効果であるかはさておき、1階大型スーパーマーケット側から、やり残した耐震補強への理解が得られ、来春には懸案になっていたスーパーマーケット内の耐震補強工事も予定されている。また、住戸内の工事がともなう排水管の全面的な更新工事の計画も今回の工事を機に始動させた。

 今回の外壁を中心とする大規模修繕工事は、居住者が自分のマンションを足元から見直す良い機会となった。

((株)スペースユニオン 一級建築士 藤木亮介)

<アメニティ新聞292号 2007年1月掲載記事>