大規模公団分譲住宅の2回目の大規模修繕工事:2008年5月号掲載
K住宅 (埼玉県・川越市)
このマンションは、旧公団分譲による14棟の大規模団地で、長期計画に基づき第2回目の大規模修繕工事を実施することになった。工事内容は、建物総合改修の一環で、前回積み残された躯体修繕不備の洗い直しを行い、バルコニー等手すり支柱基部内部処理・各階段の補助手すり設置・ハト避け対策などを行っている。
■躯体改修工事
住棟はPC構造であり、給水塔棟はRC構造である。住棟は、全体的にひび割れは少なく、給水塔棟はひび割れの再発や躯体および塗膜のピンホール不全が目立った。特に塔部分ではひび割れが多発しており、表面的には分りづらいコールドジョイントの再発不具合もあった。
これは前回の改修で十分な躯体処理がされなかったからである。また、1階の受水槽外壁部分では、水槽内部の防水不具合もあり、内部防水を水槽管理者の施工で行い、本工事で外壁の止水注入を行った。これは、外壁処理を行うにあたって、注入処理材の水槽内汚染が考えられたことから水槽内防水改修と同時に行う必要があったからである。
処理にあたっては、ひび割れが常時湿潤でしかも巣穴や豆板を伴うものであったことから、一般のエポキシ系の注入材では処理性能を期待できないため、水と反応する親水性発泡ウレタン樹脂注入材の圧入処理を行った。ひび割れ処理は、低圧エポキシ樹脂注入を行うことが一般的であるが、挙動追随性や注入拡散性が劣ることや接着強度が強すぎる点が懸念され、注入処理部分は全棟にわたって、発泡系のエポキシ樹脂注入を採用した。なぜならば、外部外壁のひび割れは、気温変化に伴って毎日挙動するため、コンクリートの引張強度よりも強く接着すると応力集中を起こし、その周辺で躯体が割れる恐れが極めて高くなる。
ひび割れ注入材は、コンクリートの引張強度と同等以下の材料を選定し疲労破壊を起こしにくい材料を選定したい。
■埋め込み型手すり等支柱基部の処理
当団地の住棟は、三社の施工会社で建てられ、アルミ手すりの納まりに差異があった。埋め込み部の支柱下部は、空洞形成と内部に蓄水がある。基部周辺の鉄筋腐食や下地鉄材並びに躯体そのものの劣化があり、常に複合した劣化が見られることが多い。また、納まりが多様で、外観だけでは判断できない。支柱内部および基部は、本来ならば第1回目の修繕で行うべき重点項目である。
支柱基部保全に要求されることは、基部下地鉄部の防錆と補強、蓄水防止および基部周辺躯体そのものの再生にあり、単に空洞を埋めるだけでは保全できないと考えている。 この保全にあたっては、アルミ材・鉄材およびコンクリート中の鉄筋防錆効果など多様な要求を満足する材料でなければならず、各種工法材料がある中で、無機質系の特殊防錆グラウト材を充填している。無機系は、アルミ材の腐食等の悪影響があると言われているが、防錆剤入りのグラウト材であれば、充填による悪影響を及ぼす事象や再発不具合はこれまで弊社では認められていない。
■階段補助手すりの付加
当団地は、5階建てでエレベーターがないため、階段以外に昇降手段がない。団地居住層の高齢化が進み、特に上階の居住者からは手すり設置要望が高かった。また、高齢者の割合は現在約11%であるが、10年以内では約38%になると推計された。
手すり材質の検討にあたっては、冬期でも手すりが冷たくないことと、握りのフィット感を重視した。また、手すりバーの連続性を考えると加工性に自由度が要求されたことから、肌触りの良い「人口木材リブ付き手すり」(マスラー手すり)を採用することになった。
<アメニティ新聞308号 2008年5月掲載記事>