外壁等総合改修工事:2010年3月号掲載
◆マンション概要
S団地は、千葉ニュータウンに建つ住戸数122戸、4棟からなる団地型マンションである。
今回の工事は、新築後12年目に実施した第1回目の外壁等総合改修工事であるが、管理組合では初めての大規模な工事に向けて、まずは長期修繕計画を整備することからはじめた。これは今回の工事だけでなく、今後の団地像を見据えた工事とする為である。
◆外壁塗装材料の選定
近年のマンションの外壁改修工事では、工事中の臭気対策などから水性系の塗料が多く使われるようになってきている。しかしS団地では、塗料の耐候性、ならびに耐汚染性などを勘案し、工事中に若干臭いはするものの、性能が水性系の塗料より勝る弱溶材系の塗料を選定する事にした。
また、新築時の1階廻りは石調吹付け仕上げであったが、工事前、1階廻りは風雨や紫外線の影響によって著しい劣化が進んでいた。石調吹付け仕上げは意匠性が高い反面、広範囲にこの仕上げが施されていると、そのメンテナンス費用が嵩む場合がある。これに対して管理組合では、今後のメンテナンス性、耐汚染性、改修費用などを勘案し、石調吹付け仕上げを改め、上階の仕上げと同様に弱溶材系塗料による吹付けタイル仕上げに変更する事とした。
以上の工事仕様は、建物の長期的な修繕費用の軽減や、耐候性、美装性を見越した選定であるが、結果として弱溶材系塗料特有の、光沢感の高い外壁に生まれ変わる事ができた。なお、1階廻りの仕上げ変更にあたっては、建物全体のカラーコーディネートを工夫することにより、これまでの美装性を低下させないような配慮をしている。
◆色彩計画
管理組合では“修繕委員会”において企業社宅管理部門と合同で、初の統一した大規模修繕工事の実施に向けて協議を重ねた上で、今回工事から“調査・設計・監理業務”を外部委託する事として、初めて設計事務所に業務委託すると共に同一施工会社による統一工事を計画した。
修繕委員会では、設計事務所による屋上・外壁・バルコニー・附属金物等の現状調査と改修仕様案に基づいて統一改修仕様を策定し、同一施工会社による統一工事を実施した。
◆鳩避け対策
今回の工事にあたっては、何とかしたい問題の一つとして鳩避け対策が挙げられていた。鳩害は様々なマンションで問題となっているが、当団地においても北側の出窓やサービスバルコニーを中心に鳩害が起きていた。出窓にあっては、防鳥ワイヤーを張ることで比較的容易に鳩害を防ぐ事ができるが、バルコニーは全戸を対象として防鳥ネットを張る事に、費用や使い勝手の面で問題が残った。そこで管理組合では、個人でも比較的容易に防鳥ネットが取り付けられるよう、バルコニー天井部分に専用のフックを付ける事とした。
居住者が、バルコニーに何の仕掛けもない状態で防鳥ネットを取り付ける場合、ともすると、ネットの固定に際して危険が生じる事もある。これに対して今回取り付けたフックは、居住者が比較的容易にネットを固定する事ができ、今後の活用が期待される。
◆おわりに
近年のマンションにおける外壁等総合改修工事では、様々な環境改善工事が実施されているが、その中には、専有部分、ならびに居住者の使い勝手に絡む工事も想定される。今回のバルコニーにおける鳩避け対策は、鳩避けを必要とする住戸、必要としない住戸など、様々な考えに公平で、かつ、過剰な費用をかけない方法を模索した結果であった。
鳩避け対策に限らず、同様な事態は多くの場面で想定され、今回の成果は今後の改修工事の一つのヒントになった。
((株)スペースユニオン 一級建築士 藤木亮介)
施工会社
塗装工業株式会社
設計監理
株式会社 スペースユニオン
<アメニティ新聞330号 2010年3月掲載記事>