3回目の大規模修繕:2013年4月号掲載
地下鉄志村三丁目駅から10分程にある「S団地」は、33年程前に財閥系デベロッパーが意欲的に開発・分譲したもので、低層階段室型から25階の超高層まで全14棟・1872戸の大型団地である。
団地には、幼稚園・保育園・カルチャーセンター等の施設や、スーパー・店舗・クリニック等が入居する商業施設等が整っている。隣接地には小学校もあり、日常生活はこの範囲で十分にまかなえる。テニスコート・プールの他、公園が団地内の随所に設けてあり、全体には緑が多く、築後30数年の間に成長したであろう巨木が落ち着いた雰囲気と安らぎを与えている。これらの豊かな環境と利便性は当団地の中古需要が絶えない人気の一つであろう。
今回大規模修繕工事を行ったJ棟は、鉄骨鉄筋コンクリート造・16階建・155戸・外廊下型である。エレベーターは2基(近い内に団地全体で取替えが予定されている)、内・外階段はそれぞれ2箇所設けられている。既存の外壁はコンクリート打放し・吹付タイル(塗装)、屋上は塩ビ系露出シート防水、廊下床は塩ビ系防滑シート貼り、バルコニー床はウレタン塗膜防水となっている。廊下・バルコニーの手摺りはスチール製・塗装仕上げとなっている。
●工事経過
平成23年9月から調査診断・改修設計を行い、翌年2月に説明会を開催して予定している大規模修繕工事の内容を居住者へ広報して理解を求めた。設計図書を基に、工事会社7社へ工事費見積を依頼し、ヒアリングを経て棟委員会・専門部会にて最終1社を選んだ。選定した「SMCリフォーム株式会社」は6月上旬のJ棟臨時総会にて承認を得た。7月下旬、居住者への工事説明会を経て8月25日工事着工した。翌25年1月末の竣工予定であったが、追加工事等により9日間程工期延長したが、全体としては事故も無く順調に完了した。
●工事内容
工事内容の基本的部分としては外壁等コンクリート躯体の補修・塗装塗替え、バルコニー床防水の更新、各部シーリングの打替え、バルコニー・廊下の鋼製手摺・隔板や外部鉄骨階段の補修・塗装塗替え、立樋・屋上高架水槽架台等の各種鉄部金物類の塗装塗替え等である。
屋上防水はこれまでに更新しており劣化も進んでいないので、既存の上に表面保護塗装とした。
バルコニー床の既存ウレタン露出防水については、改修材料を何にするかで検討を重ねたが、決定要素としては防水性能だけではなく、防滑性・美装性・防汚性と共に、清掃の容易さや次回改修工事への影響などを考慮して、超速硬化型(スプレー式)のウレタン塗膜防水を採用。この防水は、開放廊下等の床に嘗ては多く使われていたが、現在ではデザインの種類や色彩が豊富で工場生産による製品安定性等から塩ビ系防滑シートに取って代わられている。
しかし本工事での採用は、最近多く使われている塩ビ系防滑シートや通常のウレタン塗膜防水の持つ欠点をうまく補う選択であった。
●防火扉の改良
特徴的工事としては、各階EVホール防火扉の改良が挙げられる。エレベーター2基の内1台は法的に非常用(他のEV同様に通常使用できる)なので、廊下とは常時閉鎖型の防火扉で区画され、出入りの度に扉を開け閉めする必要があった。この煩わしさを解消するため、常時開放型の防火扉に改修した。これは火災時には感知器が作動して防火扉を自動的に閉めるもので、平常時には扉が開いていて開け閉めの必要が無い。
各戸の台所レンジフードと浴室・洗面・便所の排気ダクト内清掃を組合負担で実施したが、築後30数年間一度も清掃してない箇所であり、居住者からは大変喜ばれた。
ここまで大きなトラブルや事故も無く、高品質の工事が順調に完成したのは、工事を担当したSMCリフォームの誠意ある努力によるものではあるが、調査開始から工事完了まで約1年半の間、毎月1回以上の専門委員会で夜遅くまで審議し、時には工事状況確認のために危険な足場にも上がった専門部会委員の尽力が無ければ出来なかったことである。又、工事期間中の不便や騒音・臭気・塵埃などに耐え、工事に御協力いただいた居住者の皆様には感謝するものである。
設計・監理=有限会社柴田建築設計事務所
施工=SMCリフォーム株式会社(三井住友建設グループ)」
(2013年4月号掲載)