第2回目大規模修繕工事 瓦屋根の葺替工事を実施:2016年8月号掲載

 本号で紹介するのは、築27年目の小規模マンションにおける第2回目の大規模修繕工事の事例です。集合住宅でありながら、各戸が一戸建て住宅の雰囲気を持つように設計され、複雑な瓦屋根と渡り廊下や吹き抜けを持つデザインが特徴的な建物です。

右側6階屋根は葺替済、左側4・5階屋根は葺替前

1.管理組合の取り組み

 昭和63年に竣工した「Hホーム」は、鉄筋コンクリート造6階建、総戸数46戸のマンションで、過去に一度、大規模修繕工事が実施されていた。その後、各所に不具合が生じてきたため、管理組合では一昨年の秋頃より、日住協の大規模修繕支援制度を活用し、2回目の大規模修繕工事の計画を進めていった。

 建物調査と平行し、区分所有者へのアンケートを実施し、不具合と改善要望箇所の把握に努めたが、修繕が望まれる工事を全て実施すると予算額を超過するため、優先順位を決めて工事範囲や仕様を検討していった。工事会社は公募方式で選定し、今年1月の臨時総会で工事実施が承認された。

既存瓦の撤去状況

ガラス庇の腐食部補修状況

2.工事概要

 今回の工事では、通常の大規模修繕工事で実施する工事項目(躯体やタイルの不具合部補修、外壁・鉄部塗装、バルコニー等の防水)に加え、以下の特徴的な工事も実施した。

○屋根瓦葺替工事
 建物の屋根にはセメント瓦が葺かれていたが、表面の塗装が著しく劣化し、また瓦の剥落や固定ビスの抜け落ち、下地や断熱材の劣化が見られた。全面的な修繕が望まれる状態だったため、耐用年数や美観性を考慮し「陶器瓦」による葺替を実施した。また漏水等の不具合が見られた軒樋まわりは、板金による補修を随所に施した。

○外壁塗装等工事
 建物の1階まわりや共用廊下の手摺壁などには、「コンクリート打ち放し風」仕上げの塗装が施されていたが、ひび割れが目立っていた。今回の塗装工事では、塗装膜による躯体保護と工事費の削減を優先し、「微弾性塗材」を採用した。打ち放しのイメージは損なわれたが、色彩決定はカラーシミュレーションや試験塗装で検討を重ねていった。

○鉄部塗装、金物工事
 共用廊下にかかるガラス製の庇は、排水溝や雨樋の腐食が酷く、漏水も見られたため、排水口の取替や勾配補正、重防食塗料による鉄骨部材の再塗装を実施した。
なお、扉表面にタイルが貼られている玄関扉は、重量の影響による不具合が見られたが、足場を必要とする工事を優先し、部分補修と延命目的の塗装工事のみを実施した。

○給水方式変更工事
 自治体が推奨する「直結方式」への変更工事も併せて実施した。
地上の受水槽と屋上の高架水槽を撤去し、揚水ポンプを増圧ポンプに取り替えたほか、漏水事象が散発していたメーターボックスまわりの配管もステンレス管に更新した。

3.工事期間中の検討・対応

 今年3月末に着工した工事の期間中は、管理組合・日住協・施工会社・設計事務所の4者による打合せを月1~2回の頻度で実施し、仕様変更や追加工事実施の可否、居住者からの問い合わせや要望の対応などを検討した。

 工事前の調査に基づいたタイル補修の想定数量に対し、実際の工事必要量が少なかったことから、工事請負契約金額の範囲内で、駐輪場の改修や、エントランス部のグレードアップ(集合郵便受の交換、アプローチ壁に石材調シート貼)を追加で実施することができた。

 工事中にテレビの取材が入ったり、工事見学会を実施したりと、組合理事の方々の負担や苦労も多かったが、関係各位の協力により、工事は予定通り7月末に完了した。

(設計・監理/水白建築設計室 担当者)
(施工/株式会社ティーエスケー)

(2016年8月号掲載)