長期修繕計画を見直した第4回目の大規模修繕工事:2019年2月号掲載
【マンション概要】
Nマンションは1974年(昭和49年)に竣工、築後45年が経過する。鉄筋コンクリート造、地上5階建て、総戸数51戸、民間分譲のファミリータイプマンション。建物の平面形状はL字型の共用廊下形式で、立面的には一部がセットバックした形状となっている。
【過去の修繕履歴と長期修繕計画】
同マンションでは入居2年目に管理組合が設立されて、さまざまな修繕工事が実施されていた。その中でも大規模なものとして1984年(築10年)と1991年(築17年)の外壁修繕工事があげられる。ただし、これらは必ずしも長期的な計画のもとに実施されたものとはいえず、採用された工事仕様も適切なものばかりでなかった。2回目の外壁修繕工事ではかなりの資金を借り入れて実施された経緯もある。
管理組合ではこれまで反省を踏まえ1997年(築23年)に自らのマンションの実情に即した長期修繕計画を策定し、修繕積立金の改定などに取り組んだ。長期修繕計画の策定以降は建物や設備の経年状態や資金状況を適宜勘案しながら、3回目となる外壁修繕工事(2002年・築28年)、給排水管更新および直結増圧給水方式変更工事(2007年・築33年)、エレベーター更新工事(2009年・築35年)、屋上防水・鉄部塗装・埋設排水管更新・駐車場路面舗装工事(2011年・築37年)、玄関扉更新工事(2012年・築38年)などを着実に実行してきた。
特に3回目の外壁修繕工事では外装の塗替えにとどまらず、エントランスホールのレイアウトを変更してオートロックシステムとインターホン設備を新設したり、館内各所の意匠的なグレードアップが図られた。給排水設備の改修では給水システムの変更や共用配管の更新のみならず、住戸内の給水・給湯・排水管の全てを更新した。玄関扉も枠カバー工法によりシックな木目調の扉に一新している。いずれも長期修繕計画を適宜見直しながら、以前のように大幅な資金不足をきたさぬよう実施されている。
【長期修繕計画の再見直し】
直近では2015年(築41年)に長期修繕計画の見直しがおこなわれた。
事前の建物調査診断で経年劣化度合いが比較的軽度であることが確認されたことから、4回目となる大規模修繕工事を当初予定していた時期から2年間程度延伸することとした。また、4回目の大規模修繕工事時にバルコニーや共用廊下の鋼製手摺を交換することを想定していたが、経年状態が良好なことから塗装の塗り替えによる対応に見直した。アルミサッシについては、これまで資金的な課題があったために住戸ごとの対応としていたが、工事時期の延伸や鋼製手摺の交換を見合わせて塗装に切り替えるなどしたことにより資金的な余裕も生じた。全体的な収支バランスを再試算した上で、4回目の大規模修繕工事時にアルミサッシを全戸共通で更新することとした。
【4回目の大規模修繕工事の実施】
4回目となる今回の大規模修繕工事は2018年7月から12月までの約6ヶ月間を要した。外壁廻りの主要な部位は前回の大規模修繕工事時に脆弱化していた仕上塗材を撤去したうえで新たな塗材で仕上げている。
今回の工事では最上部廻りの一部を除いて既存仕上塗材への塗り重ねを基本とした。アルミサッシの更新では、全ての住戸を対象として枠カバー工法によるLow-e複層ガラス・アルゴンガス仕様とし、環境省および東京都の省エネ関係補助制度を活用することができた。共用廊下や階段の床面は玄関扉のデザインにマッチするようブラック系の色調をもつハイグレードなビニル床シートを採用して張り替えている。
照明器具類は全てLED型に、腰高窓の転落防止用面格子や外部階段の防火扉なども更新した。そのほか、敷地外周にはブロック塀が設けられていたが、以前の修繕で施された塗装の剥がれが著しく美観や安全性の面で長年の懸案事項であった。今回の工事で既存ブロック塀を撤去し、アルミ製目隠しフェンスへの更新を実施した。ちなみに、アルミサッシ、面格子、外周目隠しフェンスなどの新規部材は、薄い茶系で仕上げた外壁色にあわせた色調のステンカラーを採用している。
経年に伴い建物や設備が老朽化、陳腐化するといわれることは少ないないが、Nマンションでは新築時より意匠性や機能性が向上しているといえる。長期的視点のもとに着実に修繕や改善をおこない、居住価値を高めたマンションの好例と思われる。
株式会社スペースユニオン 一級建築士 奥澤健一
(2019年2月号掲載)