バルコニー手摺のアルミ化改修等複合的な第4回目の大規模修繕工事:2019年7月号掲載
建物概要
「M団地」は、1968年竣工、RC造、5階建、全16棟、総戸数406戸、築51年の旧日本住宅公団分譲の団地である。
工事決定の経緯
同団地では、2015年度の窓サッシ竣工後から理事会で長期修繕計画の見直し及び理事の任期見直しを含む規約改正等に取り組み、臨時総会で承認、2016年度から新体制の理事会(13人)のもとに、総務・保全・管理の三部会を置き、副理事長(2人)が各部会を統括する組織変更を行った。
この目的は、各部会に理事が関わることで、組織内での情報共有を進め、理事会の意思決定を早めることにある。
新体制のもと、従来の委員会への諮問、答申ではなく、新しい試みとして理事会保全部会内に大規模修繕工事推進検討委員会を設置し、随時理事会各理事への報告・説明、審議承認もスムーズに出来る体制をとることにした。
また毎月「ミニこうほう」等で理事会報告を居住者に配布し、工事の検討内容等々について大規模修繕工事に関することはすべて情報公開した。併せて、工事説明会では居住者からの工事に対する意見も受け付け、双方向に情報発信を行うことで、工事に向けた団地内の意識づくりを行った。
こうして2017年の総会で、2018年8月から2019年3月を施工期間とする、第4回目の大規模修繕工事が承認された。
バルコニー手摺のアルミ化改修を含めた複合的な工事
今回の工事は、周期的に実施してきた外壁改修工事、屋根防水工事、鉄部塗装工事に加え、玄関扉の交換、バルコニーの手摺の交換も行われた。なお、窓サッシは2015年に補助金を活用して全戸交換済である。
玄関扉の交換は長期修繕計画外の工事であったが、居住者から玄関扉の開閉不具合の申し出も多くなってきたこともあり、このたびの大規模修繕工事に加え実施された。
また、バルコニー手摺の交換においても、錆や、手摺が埋め込まれているコンクリート周辺のひび割れ等が指摘されていたことに加え、いつかは交換が必要な工事であること、築50年を迎える同団地の今後を考えると、足場を組む工事の際、同時に行ったほうが性能仕様が向上されると判断され実施された。
バルコニー手摺の交換においては、アルミ手摺の仕様となることから、足場設置後の採寸、製作、撤去、新設、周囲外壁の取合補修の工程を整理し、既存鋼製手摺撤去後に手摺が無い期間がないよう計画する必要がある。そのため、南側バルコニー側は、新規アルミ手摺の納品に合わせ、既存を撤去、速やかに新規アルミ手摺を設置することで、手摺の無い期間がないように計画、施工された。
また、北側腰窓の手摺は、既存撤去後、L型鋼で組んだ仮手摺を設置、周囲外壁補修の取り合い施工後、新規アルミ手摺を設置し、手摺の無い期間がないように計画、施工された。
玄関扉の交換においては、一日で撤去、取付までを短時間行う計画とし、外壁仕上げにも影響が少ない、全体工期の後半の3カ月で406戸を施工している。
大気汚染防止法等に基づく届出
工事計画中の2017年9月、横浜市に確認したところ、建物の外壁塗材、階段室、大庇上裏に使用されている塗材に石綿が含まれていないか検査し、含有していた場合は、横浜市に届出を大気汚染防止法等に基づき提出するよう説明を受けた。
届出とは、特定建築材料(吹付け石綿、石綿が質量の0・1%を超えて含まれている断熱材、保温材及び耐火被覆材)が使用されている建築物等の解体、改造、補修作業を行う際は、作業の14日前までに都道府県等に提出するものである。
これらの「特定建築材料」は、建物使用中には石綿が飛散する可能性は小さいが、解体、改造、補修の作業を行う時には飛散する可能性があるため、行う作業等によりレベル(別表参照)に区分された事前の届出が求められる。
そこで同団地では、大気汚染防止法及び横浜市生活環境の保全等に関する条例を順守するための費用として500万円を計上した。
その後、大規模修繕工事の発注するうえで、一次スクリーニングを実施。建設図面、仕上げ形状目視調査を行い、「石綿含有吹付け塗材」のレベル1となる状況は確認されなかった。
2次スクリーニングでは、建物建設時の施工業者別に団地内建物を1~4工区に分けて、実際に塗膜片の石綿含有分析を実施。一部の2つの工区、3棟の建物の大庇から、白石綿/クリソタイル0・1%超を含む塗材が確認された。
スクリーニングの結果から、同団地では、大気汚染防止法及び横浜市生活環境の保全等に関する条例に基づき、レベル2での対策を計画することで、横浜市に届出を提出した。
工事中の居住者対策
届出においては、飛散防止、周辺のモニタリングを計画し提出することが求められる。
飛散防止としては、経年劣化により躯体、塗膜の脆弱部を補修する可能性があることから、対象部位で作業を行う際の養生を計画した。
養生は飛散防止の目的だけではなく、周辺の作業床等の汚れ防止も含まれており、ポリフイルムシート、マスカー等で養生することも計画した。
また、躯体、塗膜の脆弱部が発見された場合の処置として、石綿含有塗膜の粉じんの飛散が少ない、剥離剤併用手工具ケレン工法及びHEPAフィルター付き集塵ドリルによる削孔作業にて行うことし、計画した。
石綿が含有する塗材が認められた3棟の建物の大庇等(同じ材料を使用するバルコニー、階段室)の部位についての外壁補修等作業は、前段の計画に基づく処置を行い実施された。
作業前には住民には不安がないよう周知するとともに、住民からの要望も伺いながら作業が進められた。
大気汚染防止法及び横浜市生活環境の保全等に関する条例においては、作業後の大気中に石綿が飛散していないか、監視、記録を行うことが求められており、作業中、作業後の状況を監視するためのモニタリングポストを該当棟境界に4器、該当棟近傍に各1器ずつ設置した。
なお、モニタリングポストの結果では、一般環境に石綿の漏洩がないことを確認した。
管理組合の大規模修繕工事担当者は「想定外であったが、当団地では石綿調査等費用は予算内で収まった。しかし高経年の団地では、石綿が使われている可能性の高い建物も一定程度あることも想定され、高経年の団地においては対策費用等も計画していく必要があるのでは」と語る。
こうして2019年3月30日、工事は無事故で竣工を迎えた。
設計監理=㈱Azuno、施工会社=日本総合住生活㈱
(2019年7月号掲載)