費用の3分の1は補助金を活用した給排水管更新工事:2020年1月号掲載

団地の概要

 I団地は、千葉市稲毛区小仲台の丘に聳え立つ重厚なマンションで、鉄骨鉄筋コンクリート造15階建て1棟、13階建て1棟、11階建て1棟、合計3棟、総戸数410戸。1986年から1989年にかけて分譲された。2013年に大規模修繕工事を実施。

建物外観

工事の概要

 ①仮設工事(現場事務所、加工場等の設営)②共用部分並びに専有部分の給排水管更新工事③インスペクション及び補助金申請業務。

 更新工事の共用部分は、地下ピット内の配管および立ち上がり部から最上階までの給水管の更新。専有部分は、各戸専有部水道メーター以降の給水・給湯管の更新、浴室・洗面・洗濯排水の雑排水管及びトイレ汚水管の更新(室内作業6~7日間)並びに当該工事に伴う建築付帯工事(内装工事)。

 工期=2018年7月~2019年1月の7ヶ月間。施工=京浜管鉄工業㈱の責任施工。工事費=3億4,200万円(税別)、このうち1億円を国交省からの補助金で賄った。

更新された配管

悪戦苦闘の補助金申請

 補助金は、国交省の「長期優良住宅化リフォーム推進事業」の制度を利用した。この制度は、発注者(管理組合)の補助事業者という立場で施工業者が申請することになっているので、施工を請け負った京浜管鉄工業㈱が申請の全てを代行した。このため、発注者(管理組合)と施工業者とで「共同事業実施契約」を締結した。

現場事務所

 申請にあたっての要件としては、①工事前にインスペクションを行うとともに維持保全計画及びリフォームの履歴を作成すること、②建物の劣化対策や耐震性、省エネ対策など特定の性能項目を一定の基準まで向上させる工事であること。(施工業者が給水管・給湯管・排水管の更新工事を行うことで維持管理・更新の容易性を図った工事として補助対象事業に認められた)、③国の他の補助金または地方公共団体の補助事業(国費が含めれるもの)の対象となっていないこと、などであった。

 申請業務の難問の一つが、インスペクター(建築士でインスペクター講習を受けた人)の確保だった。幾つかの団体がインスペクター講習を行っているので、HPに掲載されている講習修了者のリストをもとに、多くの方にインスペクションの依頼をしたが引き受けてくれるインスペクターを見つけることが出来なかったため、国交省と相談の上で自社の一級建築士によりインスペクションを実施することを認めてもらった。

 第二の難問は、申請手続きの煩雑さと時間がかかることだった。申請は国交省の下部機関とのやり取りになり、最初に申請書類を郵送した後は、基本的にはメールでのやり取りで、数カ月の間、指摘、回答を繰り返した。新たな指摘が出るまでに数週間を要する場合もあり、管理組合も含め、審査の動きが掴めずに気をもむ時間が長かった。

 インスペクションの書類は、一戸あたり数十枚あり、全戸分(410戸)だと一万枚以上の書類となる。マニュアルにインスペクションの実施は対象部位の一割以上の確認とあったため、全戸の一割程度の書類を提出したところ、全戸分提出するよう指示を受け、段ボール二箱分もの書類を提出することとなった。(翌年からは専有部も全戸分の一割以上の検査対象範囲と変更になった)。

 5月に申請して「交付額決定通知」が届いたのが12月末と数ヶ月の審査機関を要した。痺れを切らして理事長自ら督促の電話をかけたのが功を奏して前進するようになり、時間を短縮できた。

 事前調査としては、建物のコンクリートの中性化の調査、塩化物イオン調査を行ったが、いずれも基準値内であることが確認できた。また、建物が旧耐震か新耐震か、旧耐震であれば耐震補強しているか等各種条件があり、それを全部満たしていることを確認して申請を行った。

管理組合の活躍と合意形成

 今回工事は、インスペクションのための入室調査があり、さらに、実際の工事前に再度の入室調査が必要だったので、工事の成果は住民合意をいかに得るかに掛かっていた。このため管理組合では住民説明会を何度も繰り返すなど、地道な努力を重ねた。

 工事後、審査が完了した時点で「交付額決定通知書」が発行され、補助金は、まず施工業者の銀行口座へ振り込まれ、施工業者は補助金を管理組合口座へ入金して、全ての工事が完結となった。

 申請を代行した施工業者では「この補助事業を成功させるためには、工事の決定や事前調査の実施など早め早めの準備が重要で、且つ、補助金が出る前に工事金額の全額を支払える資金が必要となります」といっている。

(2020年1月号掲載)