外壁タイル補修に苦慮した第2回大規模修繕工事:2021年9月号掲載

 Sマンションは、東京都町田市の南部の小川という地域(東急田園都市線のすずかけ台駅から徒歩15分程度)に建っている地上9階建・住戸数95戸の築25年目(1996年建設)のマンションである。この地域は多摩丘陵の一部でなだらかな丘陵が波打つように続いていて、このマンションはその丘の頂部に建ち、見晴らしが良く日当たりの良い立地である。

 第1回目の大規模修繕工事(2008年8月~12月)から約12年6ヶ月後の2021年2月~7月に今回の第2回目の大規模修繕工事を実施した。

 管理組合の実施体制は、7人の委員と正副理事長の計9人で「長期修繕委員会」を立ち上げ、日住協の支援制度で大規模修繕実施の道筋を立て、設計事務所の協力の元で修繕計画、施工会社選定、修繕工事を進めた。

 修繕内容は、コンクリート躯体の補修、外壁のタイルの補修や塗装の塗替、鉄部の塗装塗替、シーリング打替、アスファルトシングル屋根の葺替は必須工事とし、加えて各所の防水の補修や各種金物やアルミサッシの劣化したパーツの取替、鋼製扉の開閉調整、駐車場の舗装改修工事などを実施した。

 当マンションは前述のとおり丘陵地の丘の上に立地するため、風当たりが強く傾斜屋根の傷みが酷く、板金役物の変形やアスファルトシングルの角欠けが見られた。又、過去の修繕で塗られた保護塗装が著しく劣化していたため、高耐久なアスファルトシングルと風に強いアルミ押出型材製の役物を使い、既存アスファルトシングル及び下葺き材は全て撤去し、葺き替えた。

アスファルトシングル葺替

 外壁タイルは、事前調査で目荒しをしていないツルツルの躯体に直張り工法(下塗モルタルがなくコンクリート躯体に直にタイルを張る工法)で張っているため、タイルの浮きが多く、タイル張替補修をタイル総面積の3%、接着剤注入補修を3%、合計6%の補修率を見込んで契約数量とし、実際の工事による増減を精算する実数精算方式で契約を交わした。工事を進めると、直張り工法で張ったタイルへの接着剤注入の効果が十分発揮出来ない事が判り、落下危険箇所はタイル張替補修とし、落下による危険性が少ないバルコニーの壁面下部のみを接着剤注入補修とする事とした。その結果タイル張替補修が約6.3%、接着剤注入補修が約1%で合計約7,3%のタイル補修率となった。予想していた補修率より1.3%多い補修数量の上、接着剤注入補修より高額なタイル張替補修が増加した事により、工事費が増額したが、何とか当初計上していた予備費の範囲で収めることが出来た。

簡単に剥がれた過去の接着剤注入部

タイルの裏足に接着モルタルが塗り込まれていない

ツルツルな躯体に目荒らしを施す

 又、防水は一部ウレタン塗膜防水の再防水をしたが、多くは劣化状況から保護塗装の塗替までとした。金物やアルミサッシパーツの劣化は比較的軽微で取替数は予想値を下回った。

 タイル補修の増減は事前の予想は非常に難しく、タイル張り外壁のマンションでは、必ず発生する大きな課題である。毎月1回開催した3者定例会議で現場からの浮きタイル等の調査結果報告に一喜一憂しつつも、工事の優先度をにらみながら、タイル張替範囲の判断を下した長期修繕委員の皆さんの英断が功を奏し、予備費は費やしたものの、予定していた工事をほぼ全項目実施できた。

 又、これは現場代理人及び現場スタッフが、長期修繕委員の希望を考慮し、劣化の少ない部位の工事の軽減案を提案し、予算内での予定工事が収まるように努力をしてくれたおかげでもある。尚、工期はタイル張替の増加と雨天続きのため1ヶ月程延長する事となった。

設計・監理 有限会社八生設計事務所 山田 俊二

2021年9月号掲載