修繕委員会が核となって推進した第1回大規模修繕工事:2021年10月号掲載
1 建物の概要
建物は多摩市諏訪一丁目に所在し、京王と小田急両電鉄の永山駅から徒歩5分の分譲マンションで、竣工は2007年9月、鉄筋コンクリート10階建、L型単棟81戸、建屋内一階に平置き駐輪場と屋外に機械式駐車場(附置率各100%)を保有している。
2修繕委員会の活動
竣工1年目に建物管理の必要性から理事会の諮問機関として修繕委員会を設立し、定期的な建物点検と、突発修繕への対応や計画修繕実施の判断、更には長期修繕計画内容の定期的な見直しによる修繕積立金の増額判断を理事会に答申してきた。
3 修繕経歴
これ迄に実施した主な修繕は、竣工4年目に発生した東日本大地震での外壁補修、7年目の鉄部塗装、11年目の屋上防水シートの補修と、駐車場の全段塗装である。
4 長期修繕計画と修繕積立金
「長期修繕計画書」は入居時に管理会社から配付され、その後5年毎に更新されている。修繕委員会では提出された計画内容を原案として、必要な修正を加え、理事会の承認を経て総会審議に結付けている。なお、その総会に先立ち事前説明会を複数回開催し、内容の浸透に努め、これ迄に2回の積立金の増額を実施してきた。
その結果、今回の大規模修繕時での戸当たり平均積立額は国交省の推奨額を確保できている。
5 設計監理方式の採用
大規模修繕を「設計監理方式」で行う際の最大の悩みは「適切な設計監理コンサルタントをどのようにして探すか」であった。
その解決に、「日住協」に協力を求めた。最初に「建物一日診断」を行い、その診断結果を紹介された設計監理コンサルタントの候補となる設計事務所5社に提示し、受託の打診をした。依頼に応じた4社の中から2社と面談した上で、設計監理姿勢に熱意が感じられた「汎建築研究所」を選考した。汎社は、独自に専門技術者による建物診断を行い、その内容と当組合からの情報を基に修繕の仕様書を作成し、施工元請会社を業界紙2紙で公募した。応募した15社から5社に絞り見積書の提出を依頼し、その見積り結果を書類審査と面談で「㈱太陽」を選考した。選考ポイントは仕様内容の理解度と、組合への熱意の度合い、特に、現場代理人の対応を重要視した。
6 修繕工事の範囲
長期修繕計画書で大規模修繕対象とした部位の範囲の他に、日頃の点検で補修を延期してきた部位と、この先2年以内に計画され、今回まとめて工事する事が好ましいと判断した部位も対象に加えた。
【対象部位】屋上防水、外壁、開放廊下、階段、バルコニー、ルーフバルコニ―、天井、鉄部(駐車場は除く)、エントランス庇、他に外構の補修や集会室の改修も含めた。
【工事の重点】問題解決を基本に、今後の修繕費用削減につながり、建物に高級感を与える部材への品質向上を図った。
7 プロジェクトを編成
当組合の理事会役員の任期は一年で全員が交代し、期が跨る今回のような活動には不向きな事と、修繕計画作成迄の工程は仕様固めであり、計画が承認されて以降は工事に伴う生活面の要素が加わる事から修繕委員会を核に次のような推進を行った。
①2019年末の通常総会で、「大規模修繕工事は設計監理方式で推進」し、「コンサルを活用」する事、及び修繕委員会が「大規模修繕計画」立案迄は暫定的に担当する事を決定。。
②2020年末の通常総会で、3か月後に開催の臨時総会で「大規模修繕計画」の審議を予告。
③2021年3月に臨時総会を開催し、「第一回大規模修繕計画」内容として、今後の推進業務は建築技術面だけでなく生活環境面なども議論できる様に関係専門委員会(多くの理事が専門委員を兼務)と居住者代表の婦人でプロジェクトを編成し、リーダは理事長とし、修繕委員長が事務局長となりリーダの代行を可能にした。
8 工事の推進確認
工事開始と同時に監理コンサルタントと施工元請会社の現場代理人との二者会議が毎週定期的に実施され、工事への指示と施工現場での確認が細かに続けられた。その内容は、毎月一回定期開催のプロジェクト会議の場で、工程の進捗状況や課題への対応策が報告され、課題はその場で解決が図られた。
9 むすび
工事は新型コロナ禍への対応や梅雨や台風での遅れも加わり、2週間遅れで完工したが、契約金額内で終了できた。特に大過なく完工出来たのは、次の要因が大きいと言える。
◆ 合意形成策
工事には居住者の理解と協力が重要で、その合意形成には、修繕に関わるテーマ毎に参加率を挙げるため夫々3~4回の説明会を実施した。参加は各テーマ共に約60数%と高率であった事が大規模修繕計画審議での満票承認の背景にあると感じている。
<説明会実施テーマ>
・長期修繕計画と積立金
・鉄部、駐車場塗装
・大規模修繕の進め方
・第一回大規模修繕計画
このほかに、今回の大規模修繕での施工会社からの「工事説明会」にはより身近な事もあり、79%の住戸の参加を得ている。
また、これらの説明とは別に今回の工事に関わる広報は施工会社発行の掲示や配布を除き、プロジェクトの事務局から「大規模修繕ニュース」(A4版1~2枚)を毎月1~2回、計28回、生活環境班からも数回の発行を数えた。
◆ 監理と管理の徹底
工事の品質確保には、設計監理コンサルタントの知識と経験に基づく適切な指導が重要な事は勿論であるが、それに対応できる現場代理人の業者をまとめる管理能力とが噛み合う事が必要で、今回はその両人の存在があった事は明らかである。 (完)
大規模修繕推進プロジェクト 事務局長 福勢 実
2021年10月号掲載