リフォームが容易になり団地の価値が高まる3期目の排水管改修:2018年6月号掲載
1 団地概要
- 東京都江戸川区、全12棟(中層棟RC造4階建て96戸、高層棟SRC造8~14階建て367戸、超高層棟SRC造23階建て358戸、計
- 昭和57~58年竣工
- 旧日本住宅公団の分譲団地
2 団地全体としての改修方針策定
遡ること2011年、築30年となるこの年に、排水管の詳細劣化診断を行うことから始まった。
団地概要をご覧の通り、4階建から23階建てまで多種多様な形態から成る団地である。公団住宅とはいえ、棟により排水管の設計思想や材料などはかなり異なっており、これまでの修繕履歴も異なっていた。歴史を紐解きながら調査結果を整理し、さらに長期修繕計画の見直しを行いつつ、他工事との優先準備を調整した。その結果、排水管の改修は棟ブロック毎の特徴を合理的に反映させ、4期に分けて改修していくことを決めた。
3 第1期・第2期工事
1棟だけ、材料の違いにより排水管の老朽化がかなり進行しており、待ったなしの状態であった(配管用炭素鋼鋼管)。まずはこの棟の改修は長期修繕計画の見直しと同時平行的に先行実施した。(アメニティ紙2013年11月5日号に掲載)
第2期工事は2014年10月に8階建ての高層棟(塗装鋼管)をひとまとめにして完成した。タイル貼り在来浴室の改修を考慮し、段階的スラブ上化改修手法により行った。
4 今回の第3期工事
そして築36年目となる本年4月に完成した第3期工事は、4階建ての中層棟(塗装鋼管)を対象とした。中層棟のみ過去にライニング更生工法による延命措置が施されていたので本年まで猶予があったのだが、やはり工事により撤去した古い配管を見ると、ライニング塗膜は浮きや剥がれがかなり発生しており、排水障害や漏水を招く恐れがある状態であることが確認できた。
撤去されたライニング更生管
5 改修コンセプト
改修のコンセプトはタイトルの通りリフォームしやすい住宅にすることを心がけ、資産価値を高めることを目指した。具体的には、①水回りリフォームの可変性・拡張性を新たに装備する、②健全な水回りリフォームが行えるための仕組みを装備する、③耐久性・耐震性などの基本的安全性能を格段に向上させる、というようなこれまで無かった性能をこの団地に付け加える設計をした。これらの果実を享受するためには、いろいろな設計手法を取り入れる必要があり、そのひとつが「段階的スラブ上化改修手法」によるスラブ下排水管のスラブ上化である。
複雑な段階的なスラブ上化の考え方を居住者の方に説明するために、CGアニメーションによる動画などを用いながら、できる限りわかりやすく説明をしてきたこともあって、今回工事による2階以上のスラブ上化率は75%に達した。
しかしそのことよりも、この工事が成功した最大の要因は、工事の発注者である管理組合の見事な組織体制と、事細かな所まで実に行き届いた委員会の気遣いであることがとても大きいと痛感する。
在来浴室をユニットバス化することにより排水管のスラブ上化が完成する。写真は同時オプション工事により、組合が行う立て管工事と同時にユニットバス化した住戸の事例在来浴室をユニットバス化することにより排水管のスラブ上化が完成する。写真は同時オプション工事により、組合が行う立て管工事と同時にユニットバス化した住戸の事例。
6 工期をわけるメリット
823戸もの大型団地であるから、全棟を一括発注することでスケールメリットによるコストダウンを図ることはできそうではあるが、実際は棟によりグレードや修繕履歴が異なってくるので、一概にそれがよいとは限らない。むしろ、このような住みながら室内で行われる大工事は、写真のような居住者のための仮設物などを配置しなければならず、一斉に実施していくと年間を通して団地の中が常に騒がしくなってしまい、あまりよいことではない。
プレハブハウスを棟毎に配置。ハウス内にトイレと洗濯機・乾燥機などを配置し、工事中の居住者に使用してもらう。プレハブハウスを棟毎に配置。ハウス内にトイレと洗濯機・乾燥機などを配置し、工事中の居住者に使用してもらう。
残る第4期は超高層棟358戸分であるが、鋳鉄管+セクチャー継手が使われていることもあり、もう少し猶予がありそうだ。
(設備設計担当:柳下雅孝)
建物外観
設計・監理=宮城設計一級建築士事務所、有限会社マンションライフパートナーズ
施工=建装工業株式会社
(2018年6月号掲載)