マンションに百年住む (4) ひとりで死ぬのは怖くない
ひとりで死ぬのは怖くない
上野千鶴子著『おひとりさまの老後』が売れている。上野さんらしい小気味よさでシングルライフを語っている。しかし、これは小金があって、知的な仲間もいるからの思いっ切り。大方のマンション住まいの年寄りには、二人で居る間はともあれ、ひとりになってからの不安は隠せない。
ともあれ、上野さんの本でマンション住まいの年寄りにいちばん頼りになるのは、東京都監察医務院の小島原將直さんの講演の紹介。そこには「孤独死にいわれなき恐怖を感じるなかれ。実際の死は苦しくないし、孤独も感じない」とある。ほんとうにそのとおりと思いたい。
私たちの時代の大方は神も仏も信じていないのだから、人は死ねば死に切り、看取られて死のうと、誰にも看取られずに死のうと、人間死ぬときはひとりと思い定めておけばよい。
マンションでの問題は、死後三日の内に見つけてもらえるかどうかに尽きる。死臭がドアの外へ漏れ出してからの発見では、たいへんなはた迷惑である。
そこで二つの提案がある。一つは、このところ講演するごとに言っているが、ひとり住まいの有志で黄色いシール運動を推進すること。朝起きたら玄関ドアの隅にマグネット付の黄色いシールを張る。夕方には必ず取り込む。これを誰かに、なんとなく看視してもらう。このなんとなくが、重要である。
もう一つは、管理会社が希望者のカギを預かるルールを作ること。管理会社はプライバシーに関わることを嫌がるが、これからの超高齢化社会に向けて、それではすまないのは自明である。住まう方、管理する方ともに、今までの習慣にこだわっていたのでは問題の後追いにしかならない。
ともあれマンションだからこそできるこの二つのシステムを整えておけば、上野さんの言葉を借りて「ひとりで死ぬのはぜんぜんオーライ」。 (萬田 翔)
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2009年8月号掲載)