マンションに百年住む (7) 音のことは余人には判らない

音のことは余人には判らない

窓外から聞こえる電車の轟音はあまり気にならないのに、隣戸や階上からのちょっとした音は気になって仕方がない。いったん気になり始めると、それまで気にしていなかった家人まで巻き込んでしまう。
筆者は一度、管理組合の要請で、一人住まいの女性の部屋に深夜に入って耳を澄ませたことがある。彼女は、深夜の決まった時間に不審な音がして眠れない、という。筆者には何も聞き取れなかったが、おそらく彼女には、夜の仕事帰りの人が決まった時間にエレベーターを使うことで、筆者が感知しない音が聞こえるものと判断した。とするなら、これは余人の立ち入れない個人の心的現象である。

しかしながら、マンションでの音の問題は、フローリング問題を取り上げるまでもなく、依然として古くて新しい。最近、分譲されたものでは、上下階のトラブルはあまり聞かないが、お隣でドアを閉める音がドンと響くという話はときどき聞く。最近の住戸内の間仕切りは軽量鉄骨を骨組みにして、壁の厚さが七㌢余りしかない。ドアをバンと閉めれば、隣戸へドンと響く。普通の生活ではほとんど気にならなくても、聞こえる人には聞こえるのである。だからといって、お隣りに、ドアを静かに閉めてください、と言いにいけないのもマンション生活。ここのところを十分に認識するのが、管理組合の重要な役割である。マンションの歴史はフローリング問題でこのことをしっかり学んだはずであるが、実際には、それぞれのマンションにその成果は引き継がれていない。

管理組合は常に音の悩みを聞く体制を持たなければならないし、時折、アンケート調査などをしてみる必要がある。ちなみに、先ほどあげたドアの音などは、閉めるときに手を添える生活ルールを折りあるごとに広報することで、かなりの効果を期待できる。 なお、筆者は精神科医ではないので立ち入ったことはいえないが、家人に聞こえない音が聞こえたり、音に対して敏感になっていると自覚的に思えたりする場合は、精神科医に相談することも射程に入れるといい。私たちは、いつ、うつ状態や統合失調に陥っても仕方のない時代に生きている。そこから自分を守るのは自分でしかないことも自覚しておきたい。(満田 翔)

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2009年11月号掲載)