マンションに百年住む (8) エレベーターなんかいらない
エレベーターなんかいらない
駅ホームで人の流れを見ていると、若い人たちも、大方はエスカレーターに向かっている。ひと昔前には、老いも若きも階段を上がり降りしていたのを思うと隔世の感がある。これはユニバーサルデザインの普及に伴って生じた現象の一つであるが、健常者や若者にも楽をさせてもらってありがとう、ということか。
話は飛ぶが、昔の村の小学校では、小一時間歩いて通う子供がざらにおり、運動会の駆けっこでは、この子たちが決まって上位だったという。四年前に建替えられた同潤会江戸川アパートにお住まいだった老婦人が、「私たちはエレベーターがないお蔭で、みんな足が丈夫よッ」とおっしゃったことも思い出す。
筆者は階段生活をしていないので大きなことは言えないが、「エレベーターなんかいらない」という意見に賛成である。公団や公社が分譲した容積率に余裕のある団地型マンションで建替え計画が持ち上がると、例外なく建物の老朽化とエレベーターのないことが理由にされる。30年そこそこで建物の老朽というのは、もともとおかしいことは以前に書いたし、エレベーターがないことを建替え理由にあげるのも、等価交換を進めるための方便の色合いが強い。
公団や公社が分譲する中層マンションにエレベーターが付くようになったのは、昭和末年ころからで、エレベーターのない階段室型マンションは、全国に数十万戸あると思われる。これらの多くは中古流通が一千万円を割り込んできており、エレベーターを後付する余力はまずない。とするなら、「エレベーターなんかいらない」と思い定めて、しっかり足腰を鍛えるつもりになればよい。
そうはいうものの、やがて階段の上がり降りができなくなり、介護のやっかいにならなければならない可能性も高い。身体の衰えは個人の問題に違いないが、ここでもやっぱり管理組合の力が必要だ。すでに始めているマンションもあるが、一階に空きが出たら、上階の要介護者にいち早く情報を流す仕組みを考えたい。さらには、管理組合を法人化して、一階の空き住戸を購入し、リロケーションの便を図ることも検討したい。(満田 翔)
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2009年12月号掲載)