マンションに百年住む (9) 長期修繕の建前論には要注意
長期修繕の建前論には要注意
マンション50年の歴史が作り上げた成果の一つに、長期修繕計画と修繕積立金の考え方を、住み手が積極的に積み上げてきたことが上げられる。
初期のマンションは、今以上に粗雑な造りであったために、10年前後で外壁修繕を余儀なくされ、これが計画修繕の考え方につながった。新築時のお粗末な造りが、長期修繕計画や修繕積立金を制度化してきたといって過言ではあるまい。昭和の初めに建てられた同潤会アパートは、ろくな修繕をしてこなかったのに最近まで住み継がれてきた。このことから考えても、きちっとした計画修繕をしていけば、マンションの物理的な寿命は百年でも十分に期待できる。何度も書くが「30年で老朽化」は、とんでもない考え違いである。
しかしながら、長期修繕計画の運用には大きな落とし穴が隠れている。管理会社などが作る長期修繕計画では、10年で外壁修繕、屋上防水改修を組み込んでいる例が珍しくない。確かに、10年で外壁修繕を必要とするものもあるが、これは建物の出来が悪い場合で、最近のマンションなら12~15年が目安である。漏ってもいない屋上防水を外壁修繕と一緒にやるのも大間違い。屋上防水を10年でやりかえなければならないなら、よほどの欠陥で、しっかりした施工がしてあれば、20年前後は十分に持つ。
工事関係の営業マンや管理会社は、「早めの修繕が建物の寿命に大切」と言ったりする。素人集団の管理組合はすっかりその気にさせられるが、これは建前をお題目にした情動だと思った方が良い。営業マンは工事受注が目的だし、管理会社は善管注意の逃げ口上にしている。
つまるところ、長期修繕計画は重要な制度であるが、マンションの改修工事に十分な経験を積んだ専門家の助言を受けることが大切である。管理会社が提供したお仕着せの修繕計画はとっとと捨てて、自前のものを早く作りたい。作ったその後も一定の期間に見直さなければならない。殊に、大規模な修繕工事の数年前には工事実施の妥当性について第三者の立場にある専門家の判断を仰くのが望ましい。このことは、経年マンションでも同じである。(満田 翔)
(集合住宅管理新聞「アメニティ」2010年1月号掲載)