巨大地震への備え マンションでは、被災度区分判定が復旧へのカギ(2019年4月号掲載)
今年も防災の日を迎える。1967年9月1日、東京をはじめ関東圏が甚大な被害にあった関東大震災。被害を極力少なくする対策など大地震への備えが大事だが、4年前の熊本地震を教訓に、被害を少なくする備え、被災後の復旧を重視した対応について、考えてみたい。
熊本地震は3年前の4月14日にM6.5、2日後の16日にM7・3の大地震が発生、住宅、公共施設、マンションなどが大きな被害を受けた。新耐震基準のマンションも被害を受けるなど、被災したマンション19棟が解体された。解体件数では、8年前の東北大震災を超えた。
とりわけ、問題になったのは、生活再建のかなめになる、自治体による罹災証明書の発行がマンションでは大幅に遅れたことだ。
大地震が起きると、まず建物の応急危険度判定が行われる。余震による二次災害の防止が目的。建築士、自治体職員などが建物の被害度を目視で判定、危険度に応じて、危険(赤)、要注意(黄色)、調査済(緑)の張り紙が建物に貼られる。無料で、自治体負担だ。
この後、1,2週間後から数か月にわたり、保険会社の調査員による地震保険調査が行われる。調査員は、柱、梁の損傷度を重点にみる。ほぼ同じ時期に、市町村職員による被害認定調査が行われ、全壊、大規模半壊、半壊などの判定がされ、罹災証明の資料となる。生活支援が目的とされ、これも無料だ。
1カ月後くらいに、被災度区分判定が行われるが、有料調査で、管理組合の判断になるため、ここまでの判定を求めるかどうかは管理組合によって分かれる。熊本の場合、この判定まで進む管理組合は、少なかったといわれる。被災後、熊本県管理組合連合会に協力して支援や復旧工事、被害調査に精力的に活躍した古賀一八・福岡大学・前教授は、被災度判定を重視する立場をとる。
「マンションの場合、この判定で安全にマンションに戻れるかどうか確認できる。避難所は体育館等の仮住まいになりプライバシー上の問題等などもあり、だれも入りたくないのが本音だ。判定の結果、元のマンションで生活できる、という判定が出れば、住民は本当に安心できる」とみる。ただ、有料なのがネックになる。規模にもよるが、2、300万円前後かかるとされる。被災で家具、電気製品などが壊れ、不測の出費がかさむ時期だけに、管理組合が判定に踏み切れるかどうか。判定者は日本建築防災協会の講習を受けた一級建築士とされ、判定調査員の実数は不明だ。
判定は構造面からみて、軽微、小破、中破、大破、倒壊と判定される。
NPO法人の耐震総合安全機構( JASO、本部・東京)のメンバーで、各地の地震調査の経験が深い、一級建築士・日大講師の今井章晴氏は、最近、同機構として時系列的に復旧計画を住民が進める手順を示した「マンション地震災害、事前復旧計画タイムライン」を提唱、活動している。
地震は必ず起きる。地震が起こった後はどうなるか?のパンフを作成、講演活動に駆け回るが、マンションでは、被災度区分判定で復旧不要(継続使用)、復旧不可能、要復旧が判定されるので「判定によって専門家に依頼して、マンションの復旧計画に進める。その大前提になる判定だけに、大地震が起きたら必ず判定を受けることが必至だ」と言い切る。
ただ、この判定制度があることを専門家でも知らないケースがあるなど、普及していないのが問題と指摘する。
4月に、マンション学会の福岡大会が福岡大学で開かれ、熊本地震に関する分科会が開かれた。その会場でも、被災度区分判定の実施、普及について、参加者から有料なのが普及の障害になるなら、国、市町村などが補助制度を作るべきだ、という意見が出た。
集合住宅管理新聞「アメニティ」2019年9月号掲載