台風から得た教訓  防災の考え方を整理しよう(2019年12月号掲載)

マンションでの災害リスクを考える

 近年の豪雨は「局地化」「集中化」「激甚化」しており、台風19号はそれらに加え「広域化」し、多くの地域に被害をもたらした。ハード面では堤防、ソフト面では災害情報の伝達や避難者の受け入れなどの脆弱さが浮かび上がった。過去の経験などに基づく想定が、大して役立たないこともあらためてわかった。とは言え、想定を踏まえておくことは必要であり、その上に「災害想像」をしておくことと、今回の豪雨災害の状況等を教訓として体内化することが必要である。

 日頃から災害想定と備えをしていた自治体では、避難誘導をスムーズに行なったが、多くの自治体では災害に拍車をかけ、住民の安全を阻害した。

「正常性バイアス」に注意!

 「自分が居るとろに地震は来ない」といった「自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人の特性」を「正常性バイアス」というが、何事もそのような傾向にないだろうか。「今まで大きな災害はこなかったので大丈夫」という正常性バイアスが被害を大きくする恐れがある。「思いがけないことが起こり得る」という想定・想像及び備え、用心深く思慮することが減災につながり命を守る。

マンション防災計画の策定

 管理組合は、地震・強風・豪雨・浸水・火災など広範な災害に対する知識を得て、団地・マンションへの被害想定を行なっておきたい。

 そのために「防災計画」を策定し、「居住者等は、住戸内の家具類の転倒・落下・移動防止対策を行い、自らの生命・身体を守るよう努めることとする」また、「震災等の大規模災害が発生した場合は、集会所に災害対策本部を設置し、対策本部の指示に従い行動すると共に同本部の運営に協力する。」といったことを決めておきたい。

 被害がマンションに及びそうな場合(災前・災中・災後)、居住者等の安否確認もしたい。その場合、安否確認や居住者への支援体制の確立を早期に立ち上げる必要がある。

① 管理組合は、災害時の安否確認及び援助等を目的として、あらかじめ各戸ごとの名簿を作成する。高齢者等で災害時に援助が必要な居住者については、持病、常備薬、緊急時の連絡先、区の避難行動要支援者名簿登録の有無等の情報をもとめて記載するものとする。

② 職業、資格、技術等により援護者となれる居住者等は、積極的に対策本部に情報提供し、各班に協力して要配慮者の支援を行う。

③ 管理組合は、平常時においてもマンション内で要配慮者等の見守り活動を行い、要配慮者等に異変があった場合には区に連絡する。(平常時にも名簿等を活用する場合)

④ 管理組合で作成した名簿は、管理事務所に保管し、防災委員長及び理事長が責任を持って厳重に管理する。

 このような防災計画を策定し、自主防災組織との連携を図ることが喫緊の課題である。

タイムライン(災前・災中・災後)

 台風19号の豪雨でも、避難のタイミングによって生死がわかれたことを重視したい。そのために、タイムラインを作成しておきたい。タイムラインは「事前防災行動計画」で、例えば台風が来襲するときの事前の行動計画を時間軸に沿って策定し、被害を軽減するという考え方である。減災と命を守る基本である。

 その要諦は「誰が(行政、管理組合や自主防災組織)」「いつ」「何を」「どのように」「誰に」行うかを明示し、実際に行動することである。団地・マンションの立地等によって、どのような災害リスクがあるのかを考えておき、それに沿ったタイムラインを作成し整備しておきたい。強風・豪雨・浸水などの複合災害も考えられるので、災害対策はその辺りにも考慮しておきたい。絵に描いた餅になってはならない。

避難のタイミングと命

 避難に対する考え方も改めたい。台風が直撃しない場合や豪雨でも自分の住んでいるところには影響がないと考えて(正常性バイアス)避難しない人も多いが、それが逃げ遅れに直結することもある。空振りに終わったとしても、それは何もなくてよかったと喜べばよいのであり、命を守ることを第一として、とにかく避難するクセをつけ、そのためにも管理組合と自主防災組織は共同してタイムラインを作成し、また個人や家族と話し合って作成しておくことは必須である。

  防災計画やタイムラインなどは一度策定して終わりではなく、見直し・改定が必要であり、それに基づいた啓発と訓練も重視したい。それらの形骸化は正常性バイアスそのものとなる。

集合住宅管理新聞「アメニティ」2019年12月号掲載