融資受けて工事、広がる マンション大規模修繕(2019年5月号掲載)
団地・マンションの大規模修繕は、12~15年おきに管理組合が取り組むが、独立行政法人住宅金融支援機構の融資を受けての工事が拡大してきた。年金生活の高齢住民がふえ、修繕積立金の増額が難しくなってきた一方、支援機構の低金利策や東京都など自治体の利子補給制度の導入等で、借り入れへの抵抗感が薄くなったことなどが背景にある。
マンション向け融資拡大
支援機構では、マンション共用部分リフォーム融資の制度を設けているが、管理組合が大規模修繕で利用するのはこの融資制度。2015年に利用件数が全国で388件と急増、2016年に476件と400件台を超え、2017年も444件だった。融資金額では、2016年は119億4900万円、2017年118億9700万円だった。
リフォーム融資利用の都道府県別では、2017年では東京都が198件、神奈川県40件、福岡県28件、大阪府17件、愛知県14件など大都市圏が多いが、東京の場合、マンション数が多いうえに、都の独自の利子補給制度が後押しとなって、リフォーム融資を利用する管理組合が突出している。
融資金利は、4月からの適用金利は、一般の組合では年0・56%(耐震改修工事を伴う場合は、年0・30%),マンションすまいる債積立組合の場合は、年0・36%(耐震改修工事を伴う場合は年0・10%)になる。
管理組合の借り入れには、条件が設定されており公益財団法人マンション管理センターからの保証委託が義務付けられる。保証料は工事費の80%か150万円×住宅戸数のいずれか低い方とされている。保証料は保証金額、保証期間に応じ一括の前払い。保証金額は10万円につき計算されるが、一般管理組合では、10万円で10年の場合、2551円になる。大規模修繕では、5千万~2、3億円の融資を受ける例が多いとされるが、例えば5千万円の保証額だと試算では、50万円の保証金となる。
また支援機構では、管理組合の修繕積立金の滞納割合が10%以内とし、毎月の返済額も毎月徴収する修繕積立金の80%以内などと定めている。
融資条件などがやや複雑で、同機構も簡素化を視野に入れるが、融資を受けたある管理組合は、企業経理や金融機関勤務などの経験のある理事ならいいが、そうした経験のない理事だと手続きに、やや怯むかもしれない、とみる。
2012年に1億2千万円の融資を受け、給排水管更新など大掛かりな改修工事を実施した厚木市の鳶尾第2住宅管理組合(250戸)では、当時の近藤博隆元理事長は「積立金の値上げは無理だと思い、水道橋(住宅金融支援機構の所在地)に、厚木から10回近く通った。団地の写真なども求められ、はじめとまどったが、最後は丁寧に対応していただき、融資も希望通り実現でき、5年で返済した。融資がなければ工事はできなかった」と語る。
また、東京都足立区の46戸のマンションでは、積立金不足で大規模修繕の実施について迷っていた2015年、支援機構から6千万円の融資を受け、工事を実行した。この工事については、ユニークな工事内容とあって、テレビ番組でも紹介された。
マンション融資制度で勉強会
支援機構では、団地・マンションへの融資制度などについて昨年、金融機関、マンション管理組合団体、マンション管理士会、東京都、弁護士などの協力を得て、支援機構会議室で、マンション金融問題に関する勉強会を5回開き、論議を重ねた。
参加した都銀、信用金庫など金融機関側にマンション管理組合への融資をほとんど実行していないところが多く、管理組合の信用力などへの警戒感から、マンションへの金融の道を開くことに消極的な面が確認された。
国交省によれば、マンションストックは644万戸とされるが、20年後は844万戸(うち築40年超は4割)を超えるとみられ、高齢者の比率が増え、マンションを維持する環境の悪化が予測され、修繕資金の確保が大きな課題となることは確実だ。
支援機構では、高経年マンション、管理組合が機能していない管理不全マンションが社会問題になっているなかで、管理組合向けの融資への民間金融機関の参入支援を期待しており、勉強会でも管理組合向け融資のノウハウ不足、返済不能に陥った場合の対応などが論議された。
管理組合側も金融の有用性への理解が足らない点など課題はあるが、支援機構では、4月以降も部会を改編し、管理組合向け融資の信用補完策、修繕工事を実施したマンションが中古市場でプラスに評価される仕組みなどについても論議を深める予定だ。
集合住宅管理新聞「アメニティ」2019年5月号掲載