アメニティ350号記念特集・座談会マンションの植栽管理と長期植栽計画
NPO日住協(付属マンション管理総合研究所)は「マンションの緑と管理」をテーマに都市緑化機構との共同研究を平成18年から行っています。これまで、マンションの緑と再生についてのセミナーや緑化についてのアンケート調査などを実施してきました。植栽の計画的な維持管理には長期植栽計画が欠かせないものとして位置付けておりまして、アメニティ第350号記念特集として同機構「マンションのみどり研究部会」メンバーによる植栽の管理と計画に関する座談会を開催させていただきました。
長期植栽計画の必要性と実際例
司会:まずは、平成19年度からNPO日住協との共同研究の一環として実施されているエステート聖ヶ丘2西団地の長期植栽計画の実例をお聞かせいただけますか?
西山(秀):この団地では植栽の中長期の管理計画は無く、樹木が大きくなったら切っていました。樹木が大きくなると日当たりが悪くなるなど住環境にも影響する為、間引きも含めた中長期的な計画が必要でした。また「緑は大事だから切らないで」という人もいるため、計画の最初の段階から住民と合意形成を図ることがポイントになります。計画から3年たって、現在は1期の間引き、2、3期の補植工事まで終わりました。生活環境を悪化させている樹木がなくなったことで、環境的にも経済的にも、ともに良くなっています。
-長期植栽計画の必要性を植栽管理会社側として日頃感じていますか?
渡辺:10年程度の計画スパンの中で作業をしたほうが良い環境が生まれます。1年で植栽は変化するので、10年先の樹木の形を考えないと良好な造園空間は作れないと言っても過言ではありません。植栽全体の事を考えれば、長期計画があったうえでの植栽管理です。
尾澤:例えば、計画は無くても「歩き易い環境」などのテーマを作って、テーマに沿って管理したほうが業者としてもやりやすいし、住民の皆さんも楽しくなります。
-長期植栽計画には樹木のほかに芝生もありますか?
鳥越:芝生の場合も同じです。芝生の維持が植栽管理で最も費用がかかります。芝生ではなく草地にすれば費用は抑えられ、自然性も高くなる。また芝生と草地でどちらが美しいかアンケートを取ったことがありますが大差が無く、背の大きくならないものなら、芝生と景観的には変わらないという結果がでています。
渡辺:今はイワダレソウという在来種があって、それを改良したものが芝生に変わるものとして活用されはじめています。また、団地の芝生に人が入ってもいいのか、立入禁止なのか、によっても管理の仕方は変わってきます。一年中芝生に立ち入ればどうしても衰退しますし、ブロックごとにわけて人が入る時期をずらせばかなり違ってきます。芝生でない原っぱなら一年中でも大丈夫ですが。
座談会出席者(敬称略)
・NPO日住協 西山 博之(NPO日住協理事長)
・マンションのみどり研究部会 鳥越 昭彦(都市緑化機構、研究部次長兼 主席主任研究員)
・造園コンサルタント 西山 秀俊(株式会社グラック取締役)
・植栽管理会社 田丸 敬三(東光園緑化株式会社 代表取締役社長)
・植栽管理会社 尾澤 修(株式会社大場造園 取締役)
・植栽管理会社 渡辺 隆昭(株式会社柳島寿々喜園 企画営業部長)
・司会 大和 一真(アメニティ主筆・NPO日住協理事)
植栽の日常管理のポイント
-植栽管理で日常気を付けることは?
渡辺:時期に適した剪定作業が重要です。大まかに分ければ、常緑樹なら春先に芽を出すので、新芽が固まる梅雨時期(6月頃)に剪定をします。落葉樹なら冬場は休眠中のため、眠っている間に切ってあげる。
尾澤:時期を考えないで自己都合で作業をしている植栽管理会社がいればその会社に依頼するのは避けた方がいいでしょう。良い会社かどうかは剪定する時期をみればわかります。
-植栽の自主管理で気をつける点は?
田丸:手の届く範囲のみ剪定して、高木は手付かずで、その結果、高木の樹形が悪くなるといった状況があります。高木は植栽管理会社に任せて、生垣のような低木を自分達で手入れするようにすれば理想的です。できれば一年に一度は低木も業者に手入れをしてもらうのも一つの方法です。
鳥越:自分達でやれる作業は自分たちでやるが、管理全体は専門家に任せたほうが良いでしょう。自分たちのやる部分があっても構わないが、専門家のアドバイスを受けたうえでのことであればなお良いと思います。
西山(秀):自分達で管理すればコミュニティの形成にもなりますし、環境を良くする事にもつながります。
渡辺:自主管理をしていれば、植栽への住民の関心度も高まるから良いと思います。ただし、安全面(機械作業、高所作業)では、業者は講習を受け作業をしています。器具類の扱いを間違えてケガをすることが無いよう、自主管理する場合は、機械の扱いなどについて講習を受けるような仕組みも必要と思います。
鳥越:機械の講習やアドバイスをしてもらうと、費用も伴います。その費用をサービス(無料)で求めてしまいがちですが、そうすると長続きしない。一般に植栽計画は、設計と施工の込みで費用を考えるのですが、アドバイスなどのソフトには中々お金が出ないのが実情です。自分たちで確実に維持管理をするには、ソフトの部分だけでも費用を負担し、その他のところで全体費用を抑えるという考えを浸透させないと難しいのではないかと考えます。
西山(博):管理組合側からすれば、例えば高木の作業を委託し、合わせて低木のコンサルティングもという事であれば支払いは出来ますが、コンサルティングだけで支払いが出来るかというと問題がでてくるでしょう。
鳥越:現実的にセットじゃないと費用は出ませんが、良い管理のためにはコンサルタント、施工、管理がジョイントしていることが必要です。
西山(秀):緑の専門家がサービス業に徹していなかったため、「ソフトはサービスがあたり前」といったような問題が起きているのかも知れません。専門家も意識を変えていく必要があります。
植栽管理会社への上手な委託の仕方
-植栽管理会社へ委託をするときに、ベストな方法はありますか?
渡辺:植栽管理の仕様書があるとやり易いですね。予算とあわせて全体の管理の優先順位を業者側に伝えてくれるとありがたいです。
-仕様書というのは管理組合がつくるのですか、それとも専門家がつくるのでしょうか?
鳥越:本来なら管理組合がつくるべきでしょう。しかし現実には難しいことですから、仕様書に盛り込むべき内容や、業者を選定する際にどういうポイントで選べばいいかなどを研究部会でアドバイスをしています。
-仕様書は、中身をどこまで決めたほうがよいですか?
渡辺:数量と頻度があると良いですね。また、芝刈りの高さを何センチ以下とまで書いた仕様書だと分かりやすいですね。
尾澤:仕様書があれば業者側も維持管理計画を作って、プレゼンすることが出来ます。
鳥越:仕様書が細かく書かれていれば費用に大きな差はでません。業者を選定するときに、最初に仕様書を出す。あるいはある程度大枠を押さえて、その先は企画書のような形で創意工夫を提案させる。また、評価基準がありますので、基準と明らかに違う事をしようとしているところは要注意というやり方で、評価を決める方法もあります。
-植栽管理会社の選考にあたっては、きちんとした仕様書が必要でしょうか?それとも施主側の希望(条件等)だけでも良いのでしょうか?
鳥越:前者が望ましいでしょう。後者であれば、企画書を出させて、企画書の中身を専門家に判断してもらったほうが良い。例えば芝生の管理計画書が出てきて、芝生の刈り高〇cmとしたとき、その数字が適正なのか判断がつかないと思います。研究部会として、業者を推薦したり、あるいは業者を選定する際の仕様書の作り方をアドバイスしておりますので、利用していただければと考えています。
西山(博):実際に植栽図(台帳)をつくっている管理組合はどのくらいあるのでしょうか?
西山(秀):樹木の種類や量を把握しているところは少ないでしょう。また、長いことやっていた業者が変わってしまうと、自分たちが作った台帳だからと台帳を持っていってしまう。そうならない為にも、著作権の問題を明確にしておく必要があります。
鳥越:最初から管理組合が発注し、著作権も明確にしておけば問題ないが、費用を出していなければ文句はいえないと思います。
-建物は専門業者が育っていますが植栽はまちまちで、公共の仕事は出来るが民間の仕事は経験が無いという業者が多いのですか?
鳥越:公共の仕事もして民間の仕事もしているところは多いです。ただ優良な会社はどこという情報を知るすべが無く、業者側も宣伝していません。委託するときにきちんとした頼み方をしないと、望み通りの仕事はしてくれませんし、業者の中にはたとえいわれた事が間違っていても、管理組合のいう通りにやるところが多いというのも実情です。仕様書もざっくりしたもので、ただ安ければ良いということだと、最低限のことしかやりません。
-管理組合が植栽管理会社を変えたいとき、研究部会からのアドバイスは何かありますか?
鳥越:何を決めなければいけないか、何を相談したらよいか分からないという相談が一番多いので、何を決めなければいけないかというところからアドバイスしています。選ぶ会社が分からなければ推薦もしますし、業者から提案書を出させるということもしています。提案書の判断が出来なければ、判断のポイントをアドバイスします。見積書を作る段階になったら、見積りを取るのに最低限必要な内容もアドバイスしています。
マンションにおける植栽の役割
-植栽には、見た目や環境など様々な効用がありますが、一番の役割はなんですか?
鳥越:良好な景観と住環境を与えてくれることでしょう。住環境で言えば、夏場は日陰を提供し日照を調整して涼しくしてくれます。地域によっては周辺からの輻射熱を押さえる効果も期待できます。またプライバシーを確保し、季節感を提供してくれる。大きな話だと、地域全体のヒートアイランドに貢献するということも上げられます。今問題になっているのは、プライバシーの問題と安全性の確保がバッティングするケースです。長く住んでいる人は、緑でプライバシーが護られると考えるが、若い方は見通しがよく、明るく安全安心であることを重視する傾向があります。
西山(秀):さまざまな目的も含めて樹木が植えられていますが、成長しすぎることで機能が低下し、本来の目的が達成できなくなるということがあります。そのため適切に管理(剪定等)することが必要です。
鳥越:最近の民間マンションでは、最初から環境の良さを示したいがゆえに過密に植栽をする傾向があります。当然10年も経つと緑が多すぎて間引かないとどうしようもない。最低10年たったら植栽は見直さないとその後の植栽環境を良いままで保つことはできません。
渡辺:例えば、芝生が衰退していく理由は、周りの木が大きすぎて日陰になってしまうから。その為、良好な環境を保つ為にも、緑の適正な量を考えることが重要です。
鳥越:その他植栽には、外から来る火を防ぐという効用があります。建物自体はコンクリート造のため大きく燃えるとは考えにくいのですが、周りから来た延焼を外周の植栽で防ぐということはあります。また津波、洪水などの瓦礫を植栽が止めるということも、先の震災で確認されています。
-高木ならどんな木がいいでしょうか?
渡辺:先程の延焼を防ぐ木としては葉が厚いもので常緑樹が適しています。一般的な高木としては生長がそれほど早くなく、葉・幹肌がきれい、花が目立ち季節を感じられる木が良いと思います。サルスベリは、花の咲く木が少ない夏季の長期間に花をつけ、幹肌もきれいなのでお勧めです。プライバシーを守る生垣には葉の詰まった木、ウバメガシ、マサキ、ベニカナメモチなどが良いでしょう。
理事が交代しても、ぶれない長期計画を
-最後にみなさんから一言お願いします。
西山(秀):日本人は元来緑や生き物を大切にする文化を持っています。そのためどうしても緑を切るのをためらいがちですが、良好な住環境を保つために、どう緑と計画的に付き合うかを考えることが重要です。
田丸:業者は植栽の専門知識があるにも関わらず、そのことを住民の方たちに十分伝えていなかったため、いろんな問題が生じてきました。そこを業者として改善し、より良い住環境の構築の手伝いが出来ればと考えています。
西山(博):建築同様に、植栽管理にもコンサルタントが必要なことを知らせてもらいたい。適切に指導してもらわないと、大きな団地だと植栽に関しては「NHKの講座を見た」というような自称専門家がいて、なかなか収集がつかない。本当の専門家から助言を貰い植栽管理の合意形成ができれば、管理組合としては理想的ですね。
尾澤:「緑は生き物」という視点で考える。それだけで緑との付き合い方が変わってきます。それで、もし困ることが起きたら、コンサルタントや植栽管理業者などの専門家に相談していただければと思います。
渡辺:業者の立場からいえば、管理組合の顔が見えないと感じています。なにを希望しているのか見えないし、こちらも知りたい。その為、月に1、2回の定例会を持って、話し合いをして意思疎通ができるよう改善していければと思います。
鳥越:植栽管理には、中長期的管理計画が重要です。住民もランニングコストとイニシャルコストを考えて、単年度で高い安いを考えず、中長期で考えて計画的に美しさを維持しつつ、費用を下げるという認識をして欲しい。次に、合意形成という観点から、組合の一部の人が突っ走っても後でまとまらないし、また住民の中でも声の大きい方に流される傾向があるが、住まいの位置、高さにより植栽に対する意見が違うため、住民の総意は何なのか管理組合が把握して発信すると良いでしょう。住民の合意形成が長期的な植栽のあり方を固めるには重要です。そして決まった長期的な計画を管理組合、マンション全体で共有することが大事です。理事が交代るたびに意見が変わることがよくあります。理事が毎年代わることもあるので、代わってもそこでぶれない。団地全体で長期的目標やスケジュールを共有しない限り、ある年にした失敗を何十年も引きずることになります。
-長時間にわたり議論いただき、ありがとうございました。
*研究部会=都市緑化機構マンションのみどり研究部会。平成17年度から造園コンサルタント、造園施工・植栽管理会社等が参画して、マンションの緑のあり方についての研究や消費者(管理組合等)からの相談などに応じている。(℡03-5256-7161、FAX03-5256-7164、URL=www.urbangreen.or.jp)