管理費等滞納問題を再考する⑭区分所有法第59条の活用
長期滞納管理費等の請求を実行する手段として
管理費等を滞納するのは区分所有者としての義務違反である(註28)。
1.特定の組合員の長期管理費等滞納金問題が解決できないという事実は、管理組合にとってもっとも困った問題のひとつである。
悪質な長期滞納者に対しては「共同の利益に著しく反する行為」に該当するとして、区分所有法第59条により『区分所有権の競売の請求』をする法的手段をとってみてはどうか。これは区分所有法に規定されている「義務違反に対する措置」(註29)のなかで、もっとも厳しいものであるが、他にとるべき解決方法がない場合、区分所有法が管理組合に保障している手段であるから活用してみよう。
だが、最初に未払い管理費等請求の訴えを管轄の簡易裁判所に提起し、判決の結果に応じない場合、区分所有権の競売を管轄の地方裁判所に提起するのが順当だ。
2.区分所有権の競売が認められる要件は、実体的要件ならびに手続き的要件とも、区分所有法第59条に規定されているので、各管理組合で独自に検討するとよい。
59条による管理組合の競売は「形式的競売」(註30)が多い。しかし、この区分所有権である不動産に抵当権が設定されていないか、設定されていても、その被担保債権額よりも、この物件の競売代金が高い場合は滞納管理費等債権のために当該裁判所に配当要求の手続きができる。
3.平成16年5月20日に東京高等裁判所が区分所有法第69条の競売請求に対しては、民事訴訟法第63条に規定している無剰余取消(註31)の適用を否定するという画期的な決定(註32)を出した。
これまでは、この民訴63条がネックになって、管理組合では法59条の利用をあきらめざるを得なかった。管理費等長期滞納組合員は通常、区分所有権に抵当権を設定しているし、公租の滞納による差し押さえ等が登記されており、これらは滞納管理費等債権に優先権があるからだ。
しかし、東京高裁決定はこのような場合であっても、区分所有権である物件の最低競売価格が被担保債権額に満たなくても、競売手続き費用を賄えるだけの価格であれば、法59条の競売を実施するものとし、無剰余の取消を適用しないと決定して、管理組合の権利を擁護する見解に立った。
4.法59条の競売の目的は、滞納管理費等債権を回収することが第一次的な目的ではなく、区分所有者である滞納組合員を退去させることが目的であるから、競売価格から配当を求める(すなわち、滞納管理費等債権を請求する)ものではないので、民訴63条の趣旨に該当しない競売であるとはじめて意義づけた。
この意義は画期的である。建物全体の秩序を維持する管理組合の責務を重視した判断であるからだ。なぜならこの結果、競売が成立し、滞納組合員に代わる新しい組合員(すなわち、特定承継人)による区分所有法第8条に基づく義務により、滞納管理費等が支払われるということで滞納管理費等債権は満足される。管理組合として苦難の滞納管理費等を解決できるのである。
これは管理費等債権を放棄する処分行為とは異なり、回収を目的にするという管理組合財産を保全する積極的な解決姿勢であるが、滞納者の不動産を競売するので決断するのに「勇気」がいる。滞納者に対して非情であるが、管理組合の秩序を維持するために考えておくべき権利。理事長のリーダーシップがためされる。
(註28)
区分所有法第1節第6条1項参照。
(註29)
区分所有法 第7節第57条~60条参照。
(註30)
滞納管理費等を回収するのではなく、その滞納管理組合員を退去させることが目的の競売。滞納管理費等債権は競売による特定承継人から回収することになる換価目的の競売のこと。
(註31)
競売物件の最低売却価格が抵当権者の被担保債権額に満たない場合、抵当権者が同意しない限り、裁判所は競売開始手続きを取消す制度。
(註32)
これに対する解説『マンション管理センター通信』No.229参照。
(2006年9月号掲載)