管理費等滞納問題を再考する⑪滞納組合員が死亡した場合を考える。相続放棄されたらどうする?(3)
滞納組合員が死亡した場合を考える。相続放棄されたらどうする?(3)
相続放棄の法的意味とその意義を知ると、滞納問題解決への予想していた難しさがさらに途方もなく困難なのだということが明確になる。
1 包括承継人の不存在
1.滞納組合員の死亡、相続放棄を知るまで
前々回(管理費等滞納問題を再考する(9))参照
2.相続放棄の意味の確認からスタート
前回(管理費等滞納問題を再考する(10))参照
3.限定相続の可能性はなかったのか
相続人が自己に不利益な相続を回避するために相続放棄を選択するのは法で認められた権利だからその選択に関して第三者からは沈黙するしかないだろう。しかしこの選択は管理組合としては、区分所有法上の立法趣旨で想定していない管理のケースであり、その対処に苦慮する。全相続人がその選択の手続きをする前に、少なくとも、同居の親族から事前に、ひとこと相談があったら、と思う。相続人に限定相続(註22)を選択する余地はなかったのであろうかという問いかけだ。この点、問題提起しておきたい。
限定相続について消極的な参考であるが、一般的な傾向は次のようである。
相続人には限定承認でもよいが、限定相続は相続人が共同でしなければならないことや財産目録の調整が必要であること、また、共同相続人の中から家庭裁判所によって共同相続財産の管理人が選任される法的事項など手続きが大変複雑であるため、相続放棄の方が選択され、限定相続の選択は消極的ということだ。
しかし、区分所有権を承継しなくても、限定相続人の一人が管理者として専有部分を管理するという法的行為が保証されると、管理費等の支払いはなくても、統一的な日常のマンション管理上の協力が得られ、管理組合の困難さは軽減される。
なお、限定相続でなく、相続放棄を選択された結果を解決していく困難さは既述した内容だけにとどまらない。
さらに加わる難しい現実に直面することになるが、これを認識できるには時間が必要だ。おおよそ事態の見当がつくはずだが、その区分所有権である専有部分に債権者によって抵当権がついていたり、別の債権者によって差押がなされている場合、登記簿上の債務者が死亡し、相続放棄されていることによって、それらの抵当権者等は債権者としての権利行使が不能であるという法的制限、私有財産制の本質を知るまでのことである。
4.管理組合にとって
二つのテーマのために
さて管理組合としてはそのマンションの一室に対して包括承継人となる所有権者がいないことを把握し、滞納管理費等に優先する債権者の権利行使も法的限界があることを納得できれば、特定承継人を自ら用意するしかないということに至るだろう。
それは二つのテーマ、まず、無人の一室に居住者を迎えること、第二に滞納管理費等の回収のためである。
ところが管理組合にとって特定承継人を見つけるには、抵当権もついており、差押もされているその専有部分を誰かに購入してもらうように競売手続きを実行できる権利者を設定しないことには進行しない。いうまでもなく、専有部分に所有権をもたない管理組合の理事長には死亡した組合員の区分所有権を競売する権利も権限もない。では、解決する方策として何があるだろうか。
その区分所有権を法的に処分する方法は唯一、相続財産管理人を選任することで解決するしかないだろう。
長期滞納管理費等の債権・債務問題はこの法的範疇で、はじめて現実問題として解決の端緒をみることができる。
(註22)
限定相続に関する規定は民法第922条~937条。債権者や受遺者のことはどうあれ、相続人が限定相続を敬遠し、相続放棄を選択する動機はおおよそ理解できよう。
(2006年6月号掲載)