建物Q&A 修繕設計はこの程度良いのか?(2022年6月号掲載)

 大規模修繕工事の調査設計を設計コンサルタントに依頼しました。

 先日、設計が完了し、成果図書が提出されましたが、劣化調査報告書と基本計画という打合用に作った各所の劣化写真とその部位の塗装塗替えとか再防水とか下地補修程度の修繕内容が記されたものと、見積内訳書、塗料と防水の材料メーカーの仕様表だけです。

 これで、適切な工事内容が工事会社に伝わるのでしょうか?

 修繕設計は管理組合担当理事・委員と打ち合わせながら修繕範囲や修繕グレードを決めていくことが必要です。

 そのため、いきなり修繕設計を開始せず、「基本計画」という設計事務所からの劣化調査等を踏まえた修繕部位・範囲、修繕方法の概要の提案がなされ、それを元に、設計者と管理組合とで何度か打ち合わせをし管理組合の予算内で出来る修繕の方針決めます。

 基本計画で修繕範囲や修繕方法の方針が確定したら、「実施設計」に移ります。

 「実施設計」とは、施工会社が見積や工事が出来るように仕様書や図面で修繕の詳細な内容を表現する事です。この実施設計も、管理組合に分かりやすく内容を説明しながら完成させることが必要です。

 設計事務所によっては管理組合とは前記基本計画のみを打合をし、実施設計は行わなかったり、実施設計はほとんど開示せず、設計事務所だけで作成してしまう例が見られますが、実施設計は発注内容の要ですので、必ず管理組合に説明が必要です。

 又、この実施設計が上記の設計者の意図を明確に施工者に伝える内容になっていることが必要です。設計内容が材料メーカーの仕様の転記だけで作られ、設計者の設計意図が不明瞭で、防水・塗装・シーリングの修繕だけで、他の修繕がほとんど盛り込まれなかったり、修繕方法の詳細が記載されず、施工会社におまかせの内容だったりして、とても実施設計とは言えない設計仕様書が散見されます。

 上記の内容を網羅した実施設計図書はA4で100ページ以上になるのが一般的です。
 お問い合わせの内容では、基本計画だけで実施設計が行われていない事例だと思います。

NPO日住協協力技術者 一級建築士 山田 俊二

(集合住宅管理新聞「アメニティ」2022年6月号掲載)