捺印のない委任状や受任者無しの委任状は有効でしょうか?(2007年7月号掲載)
Q
私は、マンションの管理組合理事長をしています。この度、私たちのマンションで総会が開かれることになりました。そこで、委任状等を集めたところ、氏名のみで捺印のない委任状や議決権行使書面が提出されました。これを有効なものとして取り扱っていいものでしょうか?
また、委任状には「私は( )を代理人として、議決権を行使します」と記載されているのですが、( )の中が空欄の委任状があります。このような受任する人の氏名や委任事項の記載のない委任状はどのように扱ったら良いのでしょうか。
A
委任状や契約書などの書面には氏名を書いた上で、捺印をするのが一般社会の慣習といえます。このようなことから、捺印がない委任状や議決権行使書は無効ではないかとの疑問が生じます。
ところで、裁判所などに提出する書類の一部には法律上捺印をすることが要求されているものもありますが、管理組合の総会に提出される委任状や議決権行使書に捺印を要求する法律は存在しません。他方で、民事訴訟法という法律には「私文書は本人またはその代理人の署名または押印があるときは、真正に成立したものと推定する」という規定があります(228条4項)。
委任状や議決権行使書は法律上は「私文書」に該当するものです。従って、委任状や議決権行使書に氏名の記載(署名)があれば捺印(押印)がなくても有効な文書と扱って法律上は問題ありません。
法律上は署名だけで足りるのに慣習上、署名の他に捺印を要求するのは後日当該文書の有効性についての紛争を防ぐためですから、可能なら捺印をしてもらうことが望ましいことは事実ですが、これが無くても無効になるわけではありません。
次に、受任者の氏名も、委任内容も記載のない委任状のことを一般的に「白紙委任状」といいます。このような白紙委任状は、総会においては珍しいものではないのですが、有効な委任状なのでしょうか。
結論から言えば有効です。総会の決議に際して白紙委任状が提出されたときは、議決権行使については提出を受けた管理者等(通常は理事長)に「受任者の選択、賛否の意見等」について全てを任せるという趣旨で提出されたものと理解して処理してかまいません。
しかし、単純な記載漏れという可能性もありますので、時間的な余裕があれば、本人に問い合わせて、明確にした上で処理するのが妥当でしょう。
【回答者】
法律相談会専門相談員
弁護士 石川 貴康
(2007年7月号掲載)
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