不在組合員「協力金」を認める判決が出たが、問題はないのか?(2010年3月号掲載)
Q
最高裁判所で不在組合員に対する協力金の徴収を認める判決が出たと聞きました。私たちの団地でも不在組合員が多くて、居住している組合員や理事さんたちの負担が重くなっているので、同様な扱いをしたいと思います。最高裁判所で認められたので問題ないと考えて良いのでしょうか?
A
アメニティ先月号で紹介されたように、月額2500円の住民活動協力金を不在組合員だけから徴収することが許されるのかが問題となり裁判で争われました(事案の概要については329号を参照)。
原審の大阪高等裁判所は不在組合員のみに住民活動協力金の負担を課すことは許されないと判断しましたが、最高裁判所(平成22年1月26日判決)は許されると全く逆の結論を下したのです。
この住民活動協力金は規約を改正する方法で定められましたが、ここで問題となるのは区分所有法31条1項(特に後段)の規定です。大変重要な条文ですので、もう一度確認します。31条1項後段では「この場合において規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。」と規定しています。
原審の大阪高裁は31条1項後段が適用されるケースであり、協力金を課される不在組合員の了承がないので規約変更は無効であると判断しました。他方で、最高裁判所は(本件裁判の事例において)協力金を課すことは31条1項後段の特別の影響を及ぼす場合には該当しないとしているのです。一見すると最高裁判所と大阪高裁とでは「特別の影響」について異なった見解を持っているのではないかと思われるかもしれませんが、特別の影響については同じ立場に立っていると思います。
即ち、最高裁判所は平成10年10月30日の判決で「『特別の影響を及ぼすべきとき』とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍する限度を超える場合である」と定式化しています。今回の最高裁判決も原審の大阪高裁の判決も、31条1項後段については同じ定式を使っていると考えられます。
では、結論の違いがどこから生じるかといえば本件で不在組合員からのみ協力金を徴収するとしている規約に「合理性」があるかという価値判断が異なっているからだと思われます。
大阪高裁は不在組合員のみに協力金という負担を課すのは「合理性がない↓受忍限度を超える↓不利益を受ける者の承諾がいる」と判断しており、最高裁判所は「合理性がある↓受忍限度を超えない↓承諾は不要」と判断しているのです。
また、最高裁判所は「不在組合員の負担は、居住組合員が負担する組合費が月額1万7500円であるに対し、その約15%増しの月額2万円にすぎない」こと「不利益を受ける多数の不在組合員のうち~反対してその支払を拒んでいるのは~180戸のうち12戸を所有する5名の不在組合員にすぎない」ことも受忍限度を超えない理由として指摘しています。
但し、15%増しというのはあくまで本件の具体的事例を前提に指摘しているものであり、大まかな目安としての意味はありますが、単純に15%迄なら許されると考えないで下さい。もっとも最高裁判所が不在組合員のみに負担金を課すことを認めたことは同様の規定を導入するに際して大きな意味を持つと思います。
回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川貴康
(2010年3月号掲載)