管理組合がすべき廊下のゴミ処理を自分が行ったので滞納管理費を相殺しろとYさんは主張するが…(2011年3月号掲載)
Q
私達のマンションに住んでいるYさんが管理費を滞納しています。
管理組合から請求書を送ったところ、Yから「廊下にゴミが放置されているのに管理組合が処理しないので、自分の費用で処理をした。これは本来管理組合がすべきことである。その費用と管理費を相殺する」と言われました。このようなYさんの主張は認められるのでしょうか?
A
滞納者に対して管理費等を請求すると今回のYさんのような相殺を主張をして支払を拒むケースが時々あります。
この主張は一見するともっともらしい理由に聞こえます。というのは、民法505条1項では同種の目的を有する債務を負担する場合において双方の債務が弁済期にあるときは各債務者はその対当額について相殺によってその債務を免れることができると規定しているからです。
ところで、本件と同様な問題が実際に裁判所で争われたことがあります。この裁判(東京高等裁判所平成9年10月15日判決)では本来管理組合が為すべき(隣地からマンションの敷地内にのびてきた)樹木の剪定を行った組合員がその費用の償還請求権と滞納管理費との相殺を主張したのです。
裁判所は「マンションの維持管理は区分所有者の全員が管理費等を拠出することを前提として規約に基づき集団的、計画的、継続的に行われるものであるから、区分所有者の1人でも現実にこれを拠出しないときには建物の維持管理に支障を生じかねないことになり、当該区分所有者自身を含む区分所有者全員が不利益を被ることになるのであるし、更には管理組合自体の運営も困難になりかねない事態が生じ得る。このような管理費等拠出義務の集団的、団体的な性質とその現実の履行の必要性に照らすと、マンションの区分所有者が管理組合に対して有する金銭債権を自動債権とし管理費等の支払義務を受動債権として相殺し管理費等の現実の拠出を拒絶することは、自らが区分所有者として管理組合の構成員たる地位にあることと相容れないというべきであり、このような相殺は、明示の合意又は法律の規定を待つまでもなく、その性質上許されないと解するのが相当である。」と判断しました。
前述したように民法505条1項では相殺を認めていますが、但書で「債務の性質がこれを許さないときは、この限りではない」と規定しています。
債務の性質が許さないときとは「お互いに労務を提供する」債務のように現実にお互いに履行されないと目的を達しえないものが典型例とされており、お互いの性質が通常の金銭債権である場合は性質的には相殺が許されると考えるのが素直な結論と言えますが、マンションの管理費はこれとは異なる特殊な性質を持つ金銭債権であることを強調して、性質上相殺することは許されないというのが裁判所の考え方です。
法律の専門家でない皆さん(理事さん達)が難しい理屈を理解する必要はありませんので、滞納している組合員が管理組合に債権を持っていることを理由に相殺を主張して、滞納管理費の支払いを拒否することはできないという結論だけ憶えておいてください。
回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川貴康
(2011年3月号掲載)