理事長が管理会社の言いなり、理事の私は批判文書を配布した、私は名誉毀損で訴えられるのか?(2011年5月号掲載)
Q
私は新しくマンションの理事になりました。理事長が管理会社の言いなりです。高い費用を管理会社に払っている割には十分な管理もなされていません。この問題点を組合員に認識してもらうために、私が調査しておかしいと感じた問題点について管理会社を批判する文書を配布したところ、管理会社からは名誉毀損で損害賠償請求すると言われました。私は責任を負わなければいけないのですか?
A
マンションではときどき管理会社を批判する文書を配布したり、あるいは内部で対立があり、理事会を批判したり、特定の役員を批判する文書を配布してトラブルが起きることがあります。このような場合に名誉毀損が成立するのかが問題となります。
名誉毀損の判断基準について最高裁判所は次のように述べています。
「名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係りもっぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、同行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、もし、同事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信じるについて相当の理由があるときには、同行為には故意もしくは過失がなく、結局、不法行為は成立しないものと解するのが相当である」
当該文書が管理会社を批判するものであったとしてその内容が管理会社の社会的な評価を低下させるものであり、実際に評価を低下させる危険が発生していれば、一応名誉毀損となり得ますが、仮に、名誉が毀損されたとしてもそれが
(1)公共の利害に関する事実にかかわること
(2)もっぱら公益を図る目的でなされたこと
(3)摘示された事実が真実であること、又は真実でなかったとしても摘示された事実が真実であると信じるについて相当な理由があること
が認められるときには名誉毀損は成立しないというのが最高裁判所の考え方です。
管理会社の管理業務の内容を批判することは、マンションの管理組合の運営に関わることなので「公共の利害に関する」ことに該当します。
文書の配布が、管理組合のことを考えたことであり、私利私欲を図る目的や管理会社を殊更に誹謗中傷するなど不純な動機により文書を配布したのではないとすれば「もっぱら公益を図る目的」にも該当します。
批判文書に記載された事実が真実であるか、真実でなかったとしても、事実が真実であると信じるについて相当な理由があれば名誉毀損にはなりません。
実際に理事が管理会社を批判する文書を配布したり、組合員が理事を批判する文書を配布して裁判になったケースもありますが、名誉毀損の成立を否定する結論の方が多いようです。
もっとも記載方法やその経緯によっては名誉毀損となることもあり得ますので、特に感情的な記載は控えた方が良いと思います。
回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川貴康
(2011年5月号掲載)