住戸と店舗兼用のビル。精神科クリニック営業に反対の理事がいるが(2011年11月号掲載)
Q
私が理事をしているビルは、住戸部分と店舗部分とに分かれておりまして、管理組合の下部組織として、店舗部分の区分所有者全員で構成される店舗部会が設置されています。そして、管理規約及び規則上、店舗部分にて営業を開始するには、店舗部会の部会理事会の承認が必要とされています。
今般、店舗部分の区分所有者から、店舗を医師に貸し出して精神科のクリニックを営業したいと、承認願が提出されました。ビルには、内科などのクリニックはありますが、精神科はありませんので、競合することはありません。しかし一部の理事から、精神科の患者が他の店舗やクリニックに迷惑をかけるのではないかとの声が上がっています。このような理由で、承認をしないことはできるのでしょうか?
A
管理組合は、マンションやビル等の管理を行うための私的な団体であり、その管理または使用に関する区分所有者相互間の事項を、規約によって定めることができます。
つまり、マンションやビルの管理は、区分所有者の団体による私的自治にゆだねられています。したがって、質問の事案においても、店舗部会が神経科クリニックの営業を承認するかどうかの判断は、店舗部会の合理的裁量にゆだねられているといえます。
もっとも、店舗部会が神経科クリニックの営業を承認せず、その営業のために店舗部分を使用することを禁止すると、その店舗部分の所有者の権利が制約されることになります。店舗部会の判断に何ら規制が及ばず、区分所有者の権利を自由に制約できるとしてしまうと、不合理な判断で権利が制約されてしまうことを許すことになり、不当です。
質問と類似の事案で判例(東京地裁平成21年9月15日判決)は、原則的には店舗部会の判断を尊重しつつも、店舗部会の裁量権の行使としての処分が、全く事実の基礎を欠くか又は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、例外的に違法であると判断しました。
質問の事案では、承認しない理由として、精神科の患者が他の店舗やクリニックに迷惑をかけるのではないか、という点が挙げられています。この点につき先ほどの判例は、精神科の患者が他の店舗やクリニックに迷惑をかけるとの事実を認めるに足りる証拠はないし、店舗部会がこのような事実の裏付けとなり得る資料に基づいて承認しないと判断したとはいえないとして、裏付けを欠く理由により営業を承認しなかった店舗部会の処分は、その裁量権を逸脱又は濫用したものとして違法であると判断しました。
したがって、質問の事案においても、単なる憶測だけで承認しないとするのは、違法となる可能性が高いです。
質問の事例に限らず、例えば居室のリフォームに理事会の承認を必要としている管理組合も多いかと思います。承認をしないということは、専有部分の利用に対する制約になりますから、やはり、それなりの資料や事実に裏付けされた判断でなければなりません。
回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・内藤 太郎
(2011年11月号掲載)