自殺した居室の親族から、部屋を売却するので内緒にして欲しいと頼まれたが(2012年1月号掲載)

私達のマンションに住んでいた組合員のYさんが経済的苦境に悩んで居室内で首つり自殺しました。その後、Yさんの息子さんが管理事務所を訪ねてきて、「部屋を売るために不動産会社に仲介を依頼するが、部屋の中で自殺したことが分かれば買う人はいないので、内緒にしておいて欲しい」と頼まれました。Yさんは管理費等を滞納していたので、管理組合としても早めに売却してもらい、滞納金を清算してもらった方が良いと思いますが、仲介業者から聞かれた場合に自殺したことを黙っていても問題ないですか。

管理組合が当事者となった事件ではありませんが、家族の居住のためマンションを売買契約をして、手付金を払った後で、当該専有部分で縊首自殺をしたことが判明したため、買主が売買契約を解除して手付金の返還等を求めて争われた事件があります。

この事件で横浜地方裁判所(平成元年9月7日判決)は「売買の目的物に瑕疵があるというのは、その物が通常保有する性質を欠いていることをいうのであって、右目的物が建物である場合、建物として通常有すべき設備を有しない等の物理的欠陥としての瑕疵のほか、建物は、継続的に生活する場であるから、建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景等に原因する心理的欠陥も瑕疵と解することができる。

ところで、(中略)前記事由をもって解除をしうる瑕疵であるというためには、単に買主において右事由の存する建物の居住を好まないだけでは足らず、それが通常一般人において、買主の立場におかれた場合、右事由があれば、住み心地の良さを欠き、居住の用に適さないと感ずることに合理性があると判断される程度にいたったものであることを必要とすると解すべきである。

右の観点からみると、原告らは、小学生の子供二名との四人家族で、永続的な居住の用に供するために本件建物を購入したものであって、右の場合、本件建物に買受の六年前に縊首自殺があり、しかも、その後もその家族が居住しているものであり、本件建物を、他のこれらの類歴のない建物と同様に買い受けるということは通常考えられないことであり、右居住目的からみて、通常人においては、右自殺の事情を知ったうえで買い受けたのであればともかく、子供も含めた家族で永続的な居住の用に供することははなはだ妥当性を欠くことは明らかであり、また、右は、損害賠償をすれば、まかなえるというものでもないということができる」と判示して、買主の手付金等の返還を認めました。

つまり、住むことを目的として購入した部屋で自殺があれば、通常の一般人であれば購入しないであろうから、瑕疵があると評価できるということです。

宅建業法の重要事項説明義務には、建物内で自殺や殺人事件があった場合の規定はありませんが、取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼす事実を認識している場合は故意に黙っていることを禁止する規定が宅建業法にはありますので、仲介業者はこの点の確認を求めることが良くあります。

管理組合としては、自殺の事実を把握しているのであれば、自殺した事実はないと嘘を言ってはいけません。本件で、自殺した事実を把握しているのであれば仲介業者に対して事実を答えるべきです。

他方で、仲介業者から何も聞かれていないのに答える義務まではないと考えますが、後で発覚した場合売主と買主との間でトラブルとなることは明らかですから、自殺の事実が明確であれば情報として提供した方が良いでしょう。

これに対して、自殺か病死か不明であるなどの場合は、むしろ憶測や噂に基づく曖昧な情報は提供すべきではないと考えます。

回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川 貴康
(2012年1月号掲載)