テナント料と滞納管理費の相殺は認められるか?(2012年5月号掲載)
Q
私達のマンションは1、2階がテナントの複合型マンションです。1階でテナントを営業しているYさんが管理費を滞納しているので、請求したところ、共用部分を賃貸することで管理組合が得ている収益金は自分を含めた区分所有者に分配されるべきものであるから、滞納管理費と相殺すると言われました。このような主張は認められるのでしょうか?
A
区分所有法19条では「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生じる利益を収取する」と規定しています。
共用部分から生じる利益の典型例は駐車場等の使用料ですが、標準管理規約では管理に要する費用に充てるほか、修繕積立金として積み立てると規定されており、多くのマンションもこれに倣っていると思います。そして、当該年度で修繕積立金が使用されなくても、時期以降に繰越金として会計処理を行っていると思います。
区分所有法上は利益を収受する権利があるとされながら、前述のような会計処理を行っていることから、区分所有者が収益金の分配を受けることはありません。これは区分所有者の収益金の分配請求権を侵害するもので許されないと主張して実際に裁判となった事件があります(東京地裁平成3年5月29日判決)。この事件で裁判所は次のように判断しました。
「区分所有建物においては、各区分所有者は、一棟の建物の一部を構成する専有部分に対して排他的な所有権を有する一方で、専有部分がその機能を保つために必要不可欠の補充的機能を営む共用部分に対して有する共有持分については、その分割又は解消を禁止され、専有部分と分離しての処分ができないなど、相互の拘束を受ける関係にある。区分所有者らのこのような関係に照らすと、区分所有者らの間には、一種の人的結合関係が性質上当然に成立しており、各区分所有者は、右結合関係に必然的に伴う種々の団体的拘束を受けざるを得ない関係にあると解するのが相当である」
「共用部分から生じた利益は、いったん区分所有者らの団体に合有的に帰属して団体の財産を構成し、区分所有者集会決議等により団体内において具体的にこれを区分所有者らに分配すべきこと並びにその金額及び時期が決定されてはじめて、具体的に行使可能ないわば支分権としての収益金分配請求権が発生するものというべきである」として滞納管理費等との相殺を否定しました。
例えば、A、B、Cの3人で土地を所有して駐車場として貸していた場合、民法では持分の割合に応じて分割債権を取得するというのが一般的な見解ですが、マンションの管理組合のような団体的結合が強い団体では、民法の一般的な共有の考え方は適用されないということです。したがって、本件でYさんの主張は認められないということになります。
前述した裁判例の「一種の人的結合関係が性質上当然に成立」しており、このような結合関係から「必然的に種々の団体的拘束を受けざる得ない関係にある」という言い回しは、マンションの管理組合の性格をよく現しており、類似の問題を考える際に有益な視点を与えてくれるものです。
回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川 貴康
(2012年5月号掲載)