競売住戸の滞納水道・電気料を購入者に請求することは可能か?(2012年11月号掲載)
Q
私が理事を務めるマンションでは、管理組合が水道水と電気の一括供給を受けて、親メーターで計測された使用量を基に算出された全戸分の使用量を一括立替払いした上、各専有部分に設置した子メーターにより計測された使用量を基にして算出した各専有部分の使用料金を各区分所有者に請求しています。管理規約には、組合員は、専有部分において使用した公共料金を支払期日までに管理組合に支払わなければならないと規定されています。
ある居室が競売となり、その区分所有権をAさんが取得しました。そこで、前区分所有者が滞納していた水道料金と電気料金を、新区分所有者のAさんに請求したいと考えているのですが、可能でしょうか。
A
管理規約に基づき他の区分所有者に対して有する債権については、債務者である区分所有者の特定承継人に対しても行うことができます。つまり、前区分所有者が滞納している場合には、新区分所有者に対しても請求が可能です(区分所有法8条、7条1項)。
もっとも、管理規約で定めることができるのは、あくまで建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項です(区分所有法3条1項前段、30条1項)。それ以外の事項については、原則定めることは許されません。
今回問題となっている、各専有部分の水道料金や電気料金は、専ら専有部分において消費した水道や電気の料金ですから、共用部分の管理とは直接関係がなく、区分所有者全体に影響を及ぼすものとはいえない事柄です。したがって、原則、規約で定めることのできる債権の範囲には含まれませんので、原則として、新区分所有者に対して滞納分を請求することはできません。
しかし、マンションによっては、何らかの事情で、水道水や電気の供給契約について、戸別契約ができない場合があります。そうした場合、管理組合が一括契約をして使用料金を立替払いし、各区分所有者に使用料金を請求することは、各専有部分に設置された設備を維持、使用するためのライフラインの確保のため必要不可欠の行為といえますから、建物の管理又は使用に関する事項として区分所有者全体に影響を及ぼすということができます。
判例は、水道局の取扱い上、各戸計量・各戸収納制度を実施することができず、また、供給電圧や電気室供給の問題で戸別契約が締結できないマンションにおいて、特段の事情を認め、例外として管理規約で定めることを認めて、新区分所有者に滞納分を請求できると判断しました(大阪高等裁判所平成20年4月16日(判例タイムズ1267号289頁)。
したがって、原則的にAさんへの請求はできませんが、何らかの事情で、水道水や電気の供給契約について、戸別契約ができない場合は、Aさんへの請求が可能となると考えられます。
回答者:法律相談会 専門相談員
弁護士・石川 貴康
(2012年11月号掲載)